肝硬変は肝線維化が進行し,肝予備能が低下する肝疾患の終末像である。病因は慢性ウイルス性肝炎,アルコール性肝疾患(ALD),非アルコール性脂肪肝炎(NASH),自己免疫性肝疾患が代表的であり,わが国ではC型肝炎が最多であるが,近年はNASHやALDの比率が増加している。
肝硬変の診断においては肝線維化と肝予備能の評価が重要となる。肝線維化評価のgolden standardは肝生検による病理組織学的検査だが,侵襲的な検査である。非侵襲的な線維化評価として血液検査を用いたスコアリングシステム(Fibro Test,FIB-4 indexなど),バイオマーカー(ヒアルロン酸,Ⅳ型コラーゲン,M2BPGiなど),画像診断(超音波elastography,MR elastography)がある。肝予備能の評価はChild-Pugh分類が広く用いられているが,近年はALBI gradeも客観的指標として用いられている。
肝硬変の進行抑制には原因に対する治療(抗ウイルス療法,断酒,免疫抑制療法など)に加え,栄養療法や合併症の管理も適切に行う必要がある。さらに肝細胞癌のサーベイランスを行うことも忘れてはいけない。
肝硬変患者は「蛋白低栄養」か「エネルギー低栄養」,もしくはその両方の「蛋白エネルギー低栄養(protein energy malnutrition:PEM)」に対する治療介入を検討する。耐糖能異常のない肝硬変患者のエネルギー摂取量は25~35kcal/kg(標準体重)/日,耐糖能異常があれば25kcal/kg/日とする。 夜間の飢餓状態改善を目的に1日の総摂取エネルギーより約200kcalを分割し,就寝前に摂取する就寝前エネルギー投与(late evening snack:LES)も有用である。
蛋白質は蛋白不耐症がない場合は1.0~1.5g/kg/日とするが,蛋白不耐症がある場合は0.5~0.7g/kg/日とし,不足分を分岐鎖アミノ酸(BCAA)製剤で補う。血清アルブミン値が3.5g/dL以下であれば蛋白低栄養状態と判断し,BCAA製剤の経口投与を開始する。BCAA製剤には顆粒製剤と肝不全用経腸栄養剤があるが,非代償期肝硬変に伴う低アルブミン血症では顆粒製剤を導入し,肝性脳症を伴う慢性肝不全に対しては肝不全用経腸栄養剤を使用する。
肝硬変の主な合併症としては腹水・浮腫,肝性脳症,食道・胃静脈瘤,こむら返り,皮膚瘙痒症などがある。
腹水・浮腫出現時はまず塩分制限(5~7g/日)と栄養療法を行い,利尿薬投与を検討する。 第一選択は抗アルドステロン薬(スピロノラクトン),第二選択はループ利尿薬(フロセミド)である。スピロノラクトン50mg,フロセミド20mg投与で効果不十分な場合は腎機能悪化を防止するためバソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン)の導入を検討する(導入時は入院し,高ナトリウム血症などの副作用が生じないか観察する)。トルバプタン投与でも効果不十分な場合は利尿薬の静脈注射やアルブミン製剤併用が検討され,これらにも抵抗性の難治性腹水に対しては穿刺や腹水濾過濃縮再静注法(CART)の適応を検討する。
肝性脳症のうち急性期はBCAA輸液製剤が即効性を示す。 症状安定後は再発予防として発症・増悪因子(高蛋白食,便秘,消化管出血,感染,脱水)の管理に加えて,BCAA製剤(蛋白不耐症がなければ顆粒製剤,あれば経腸栄養剤)を用いる。また合成二糖(ラクツロース)および効果不十分な場合は難吸収性抗菌薬(リファキシミン)を追加する。
カルニチン欠乏はこむら返りや肝性脳症,サルコペニアに関与し,亜鉛欠乏は肝性脳症に関与するため,適宜補充を検討する。
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