低髄液圧による頭痛は,1938年Schaltenbrandにより髄液無産生症という名で報告をされたのが初めてとされる。当初,その機序として髄液の産生低下が推定されていたが,その後,1970年代に髄液漏出がその病態の本質であるという症例が,Labadieらにより報告された。わが国では,脳脊髄液減少症という概念が提唱されていたが,髄液の減少を評価することができないため,嘉山らにより脳脊髄液漏出症という概念が提唱され,その診断指針が作成された。脳脊髄液減少症,脳脊髄液漏出症,特発性低頭蓋内圧症候群などの呼称があるが,ほぼ同一のものとして考えられている。「国際頭痛分類 第3版」では,非血管性頭蓋内疾患による頭痛の中の低髄液圧性頭痛に分類されている。低髄液圧性頭痛はさらに硬膜穿刺後頭痛,脳脊髄液廔性頭痛,特発性低頭蓋内圧性頭痛に分類される。
低髄液圧による頭痛は通常,起立性頭痛を呈し,悪心,首の痛み/こわばり,光過敏や耳鳴り,聴力変化を伴う(国際頭痛分類 第3版)が,時間経過とともに起立性頭痛の特徴が不明瞭となることから,詳細な病歴聴取が必要である。2021年『JAMA Neurology』誌に,特発性低頭蓋内圧症候群(spontaneous intracranial hypotension:SIH)に関するmeta-analysisの結果が公表された1)。それによると,最も一般的な症候は起立性頭痛で97%に認めた。ついで悪心・嘔吐54%,首の痛み/こわばり43%の順に続いた。
脳脊髄液の成分の検討では,脳型トランスフェリン(脈絡叢で産生)が健常者に比して増加することが判明しており,診断のバイオマーカーとして期待される2)。脳脊髄液中には,2種類のトランスフェリン,すなわち血清型トランスフェリン(肝臓で産生)と脳型トランスフェリンが存在する。脈絡叢での脳脊髄液産生が亢進すると脳型トランスフェリンが高値となると考えられる。
脳脊髄液の硬膜外への漏出を証明することが中心となるが,ミエロCT,脊髄MRI,脳槽シンチグラフィーのいずれかで髄液漏出の所見を得ることが必要とされる。D’Antonaらの報告では,頭部MRIではびまん性硬膜肥厚を73%に認めたが,異常所見なしも19%であり,脊椎MRIでは48~76%に硬膜外脳脊髄液貯留を認めた1)。
まず,腰椎穿刺を伴わないMRI(T2脂肪抑制像やMRミエログラフィーなど)にて評価を行い,MRIにて髄液漏出所見を認めない場合はミエロCTや脳槽シンチグラフィーを検討すべきである。脳槽シンチグラフィーは,髄液の動的変化をとらえることができる点で優れているとされる。脳槽シンチグラフィーとミエログラフィーの比較検討の結果,ミエロCTやMRミエログラフィーは,解剖学的解像度において脳槽シンチグラフィーより優位であるが,実益性には限界があるとの結論が得られた。最近,脊髄MRIによる診断では,ガドリニウム造影HT2-FLAIRによる髄液漏出の検出が特に優れていることが示された3)。
「国際頭痛分類 第3版」では鑑別診断として,体位性頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)の記載がある。低髄液圧による頭痛患者に体位性頻脈症候群を認めたとの報告もあることから,両者の共存にも注意を払う必要がある。
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