魚鱗癬は,皮膚バリア機能に最も重要な角質の形成や維持に関わる遺伝子群の変異により,角質の形成異常と皮膚バリア障害を生じる疾患群であり,臨床的には魚の鱗状に堆積した鱗屑を特徴とする。先天性魚鱗癬は2015年に指定難病に認定されている(一部の病型は対象外)。
臨床症状が特徴的であるため診断自体は比較的容易であるが,病型診断には専門医の診察が必須である。皮疹の性状(鱗屑の厚さ,大きさ,色,分布など)や病理組織所見,発症年齢,遺伝形式(家族歴),合併症の有無,遺伝子変異所見に基づいて病型を決定する。
尋常性魚鱗癬とX連鎖性魚鱗癬は比較的患者数が多い病型であり,これらに関しては基本的に保湿剤外用のみで治療する。経験上,ヘパリン類似物質含有製剤が好まれる傾向にある。同製剤には4つの剤形があり,患者の嗜好に合わせて使いわけてよい。たとえば,外用剤のべとつきを嫌う患者にはローションやフォームを,べとつきが気にならない患者には軟膏やクリームを処方することが多い。
その他の病型には,表皮融解性魚鱗癬や先天性魚鱗癬様紅皮症,葉状魚鱗癬,道化師様魚鱗癬などが含まれるが,概して臨床症状は重篤である。白色ワセリンやヘパリン類似物質含有製剤を用いた保湿剤外用を行いつつ,角化が強い場合にエトレチナート内服を併用することが多い。特に最重症型の道化師様魚鱗癬では,生下時にNICU管理が必須であり,その管理下で生後すぐからエトレチナートの投与を行う。
なお,病型によらず,手足など角化が強くなる傾向のある部位にはサリチル酸製剤,尿素製剤,ビタミンA製剤,活性型ビタミンD3製剤などの外用剤も候補となる。
エトレチナート内服に関しては,以下の点に注意を払う必要がある。
本剤には催奇形性があるため,男性は投与中および投与中止後少なくとも6カ月,女性は投与中および投与中止後少なくとも2年の避妊が必要である。また,投与中および投与中止後少なくとも2年間は献血を行ってはならない。さらに,成長障害をきたす可能性があるため,一般的に成長期にある患者への使用は勧められない(道化師様魚鱗癬の患児への投与は例外)。
このほかにも注意すべき点はあり,使用の際には本剤に精通した医師から,患者あるいはそれに代わりうる者に注意事項を説明の上,専用の書面で同意を得る必要がある。
催奇形性の観点から,妊婦や妊娠している可能性がある患者には禁忌である。
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