ラムゼイ・ハント症候群は,①耳介や外耳道を中心とする帯状疱疹,②顔面神経麻痺,③めまいや難聴などの第Ⅷ脳神経症状,を三主徴とする疾患である。顔面神経膝神経節に潜伏感染した水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)が疲労や免疫低下に伴い再活性化し,ウイルス性神経炎を生じることが原因である。顔面神経麻痺全体の約15%を占める。
帯状疱疹,顔面神経麻痺,第Ⅷ脳神経症状の三主徴すべてが出現する完全型と,部分的な症状のみの不完全型がある。VZVの再活性化が原因であるにもかかわらず帯状疱疹が出現しない無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete:ZSH)が存在し,診断にはペア血清を用いたVZV抗体価の測定が有用である。稀に,咽頭,口頭に病変が広がり下位脳神経麻痺(第Ⅸ,第Ⅹ脳神経)による嚥下障害,嗄声を生じることもあり,注意を要する。
特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)と比較して,ラムゼイ・ハント症候群は予後不良のことが多いため,両者を発症早期に鑑別し,ステロイドと抗ウイルス薬の併用療法をできるだけ早急に開始することが重要である。
顔面神経の評価にはHouse-Brackmann法や40点法(柳原法)を用いて,麻痺の重症度を判定する。40点法では麻痺スコア10点以上を不全麻痺,8点以下を完全麻痺と定義しているが,特に20点以上を軽度麻痺,18~10点を中等度麻痺,8点以下を高度麻痺と判断し,重症度や発症からの時期を考慮して適切な薬剤を適切量投与することが,薬物治療のポイントである。
重症度を判定する際には,発症初期では麻痺が軽度でも2日目以降悪化し,1週間前後で最悪となることに留意しなければならない。
麻痺スコア8点以下の場合には,発症5~10日目に誘発筋電図によるelectroneurography(ENoG)を施行し,ENoG値が10%未満であれば顔面神経減荷術を考慮する。手術はできるだけ発症2週間以内,遅くとも1カ月以内に施行することが望ましい。
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