医療,福祉サービスをめぐる急激な変化の中で,精神障害者の地域支援に関わる実践のあり方にも変化がみられる
地域生活支援を展開するための医療と福祉の連携,協働について再考が求められている
支援者が協働する目的が,障害当事者のリカバリーであり,希望を育むという点にあることを忘れてはならない
筆者はクリニックを含めると医療機関に16年勤務し,その後13年間,地域の社会福祉法人で精神保健福祉士(psychiatric social worker:PSW)として実践を継続している。昨今,障害者領域でも地域包括ケアの必要性が提唱され,保健福祉医療の連携が強調されているが,医療,地域の福祉サービス双方が急速に変化する中で,はたして医療との連携は促進されているかという疑問を抱いている。本稿では精神障害者の生活支援の現状をふまえ,医療との協働に関して論じることとする。
社会福祉基礎構造改革による「措置」から「契約」へという福祉サービスの供給に関わる転換は,福祉現場に大きな変化をもたらした。「契約」が持ち込まれたことにより,職員と利用者の対等性がより強調されたのである。障害者自立支援法の見直しを直接の契機として2011(平成23)年に障がい者制度改革推進本部が立ち上がり,ソーシャル・インクルージョンへという流れの中で,「障害者の権利に関する条約」の批准をめざした改革が行われた。その論点のひとつが医学モデルから社会モデルへの転換であった。医学モデルは,障害者に医学・生物学的視点から接近し,疾病,外傷等から生じた欠損や欠陥が,行動の制限や社会生活の困難をもたらすとする考え方である。障害者の生きづらさが個人的な問題とされることから,個人モデルとも表現される。医学モデルに対して社会モデルは,障害を社会によって作られた問題とみなし,社会的障壁の除去をめざした社会的行動を求める。精神障害者を対象としたソーシャルワークに関しても,疾患に焦点化した医学モデルから社会との関係性に焦点化した社会モデルへの転換が語られるようになって久しい。そして,診断主義や機能主義に代表される伝統的なソーシャルワークから,個人と環境の交互作用に着目した実践モデルが台頭し,支援者が先導するのではなく,障害のある人たちの意思や潜在的な力に着目したリカバリー,リジリアンス(resilience)といった概念やエンパワーメント・アプローチやストレングスモデルなどの方法論1)2)が次々にわが国に紹介されてきたのである。そうした流れは,福祉領域において精神科医療の歴史に対する批判とともに,医学モデルへの批判と結びつけて理解されてきたように感じる。
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