2013年,日本人の平均寿命と健康寿命の差は男性9.02年,女性12.4年と報告された。つまり,約10年間,何らかの介護が必要ということになる。QOL低下の主な原因は,①脳血管障害(18.5%),②認知症(15.8%),③高齢による衰弱(13.4%),である。いずれも生活習慣病(高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満など)との関連が指摘されている。特に,わが国の社会問題のひとつである認知症は,病態に直接踏み込む疾患修飾薬がないため,その出現に期待しながら,生活習慣病の予防・治療によって認知症の発症予防あるいは進行抑制をすることが必要である。
さて,認知症の原因の60~70%を占めるアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)では,臨床的に認知症をきたす約15~20年前から徐々に,病理学的な変化である大脳皮質における神経原線維変化(タウ蛋白)の出現や,老人斑(アミロイドβ蛋白)の蓄積が始まっている。この病理学的変化に糖・脂質代謝や高血圧,うつ,さらに睡眠障害といった生活習慣病が関連することが指摘されている。実際の疫学研究でも,脂質異常症や糖尿病,高血圧を治療することにより,AD患者の知的機能の低下が抑制されることが報告されている。
近年,先進国では認知症発症率が低下しているという報告もあり,喫煙率低下,教育レベルの向上,血圧治療,スタチンによる脂質代謝異常の治療などとの関連も指摘されている1)。食生活,運動,睡眠などの生活習慣を見直すことは,認知症予防の点からも重要なことと考える。
【文献】
1) Matthews FE, et al:Nat Commun. 2016;7:11398.
【解説】
菱川 望,*阿部康二 岡山大学脳神経内科 *教授