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ヘバーデン結節に対するエクオールの有用性

No.5113 (2022年04月23日発行) P.54

平瀬雄一 (四谷メディカルキューブ 手の外科・マイクロサージャリーセンター長)

登録日: 2022-04-20

最終更新日: 2022-04-19

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ヘバーデン結節に対するエクオールの有用性についてご教示下さい。
(東京都 S)


【回答】

【手指の変性疾患は主に滑膜の腫脹により発症するが,その原因はエストロゲン量の急激な減少にある。エストロゲン様作用を持つエクオールを摂取することにより,症状の緩和が期待できる】

手指のこわばり,関節の腫脹と疼痛などは,妊娠授乳期,月経前,更年期初期などに多くみられる不定愁訴です。これらの症状を未治療のまま放置すると,7~10年くらいで変形性関節症の所見をX線上でも確認できるようになると思われます。このような症状の背景にエストロゲンの関与があることが,2010年前後から報告されるようになってきました。

関節や腱鞘の周りの滑膜にはエストロゲン受容体(estrogen receptor:ER)βが多く存在しますが,妊娠授乳期や月経前あるいは更年期になると,エストロゲン量の低下によりERβが未結合となるため,エストロゲン効果が出ず,滑膜の腫脹は取れません。滑膜が腫れたままになっていると,やがて腱鞘炎やばね指を起こします。腫れた腱は手根管の中で正中神経を圧迫して,手根管症候群を発症させます。

また,腫れた浅指屈筋腱が手指近位指節間関節(proximal interphalangeal joint:PIP関節)を慢性的に牽引することによりPIP関節軟骨が削られ,ブシャール結節を起こします。

さらに,滑膜の腫れで関節包の腫脹が続くと,関節軟骨が削られ,側副靱帯が緩んで関節が亜脱臼しやすくなり,母指CM関節症やヘバーデン結節を起こします。つまり,手指の変性疾患は主に滑膜の腫脹により発症し,その腫脹の原因はエストロゲン量の急激な減少にあるのです。この仕組みに男女差はありませんが,女性はエストロゲン値が1/10まで大きく落ち込むため,症状がより激しく出ます。

エストロゲンの補充療法は有効な方法ではありますが,乳癌や血栓症の誘発などの副作用もあり,投与用量や期間に制限があります。

一方,イソフラボンの代謝産物として見つかったエクオールはエストロゲン様作用を持つにもかかわらず,生殖機能を司るERαには作用せずに,主にERβだけに作用するといった特徴を有します。エクオールを摂取することで滑膜の腫脹が和らぐ可能性があり,関節や腱の腫脹を取ることができれば,手指の不定愁訴はかなり改善します。最近,異なった施設で行われた,いくつかの二重盲検介入試験においても,エクオール摂取による症状の緩和が一様に確認されています。

ただし,エクオールの摂取によって関節の変形自体が改善するわけではないので,進行した変形性関節症には手術療法による治療が必要であるということは,言うまでもありません。

【参考】

▶ 平瀬雄一:日女性医会誌. 2018;25(2):307-11.

▶ Hirase Y:Clin Surg. 2018;3:Article 2170.

▶ 平瀬雄一:私の手はなぜ痛いのか,しびれるのか,曲がっているのか. 幻冬舎, 2020.

【回答者】

平瀬雄一 四谷メディカルキューブ 手の外科・マイクロサージャリーセンター長

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