トキソカラ症とは,イヌ回虫(イヌトキソカラ)またはネコ回虫(ネコトキソカラ)による感染症である。環境中に存在する感染力のある虫卵(幼虫包蔵卵)を偶発的に摂取するか,トキソカラに感染したウシ・トリ・その他の動物の筋肉やレバーを十分加熱せずに摂取して感染する。わが国では後者の食品由来と考えられる例が多い。虫体の直接証明は困難で抗体によってしか診断できないため,イヌ回虫症とネコ回虫症を区別することはできない。ただし病態に大きな差はなく,いずれの寄生虫も体内で成虫にはならずに体内を移動して好酸球性の炎症を起こす。
トキソカラ感染の有無は,抗体検査以外の方法では判断できない。虫体の存在部位によって以下のようにいくつかの病型にわけられる。理由はわからないが,病型は相互排他的で,複数の病型が同時にあるいは時をおいて現れる例は稀である。
著明な末梢血好酸球増多があり,肺または肝臓に多発性の小結節がみられる。経過中に結節影が移動,あるいは消滅と新規発生を認める場合がある。典型的には発熱,倦怠感,咳嗽などを訴えるが,まったく自覚症状を欠くこともある。多くの例で血清総IgE値が上昇する。血清の抗トキソカラ抗体検査により診断する。
内臓型と同様に著明な末梢血好酸球増多,高IgE血症があって血清抗トキソカラ抗体が陽性だが,症状を欠き,肺や肝臓その他に異常陰影を認めない。内臓型の一亜型とも考えられる。
手足のしびれ,異常感覚等を訴えて受診し,頸髄あるいは胸髄に炎症性の腫脹を認める。末梢血好酸球や血清総IgEは,上昇していることも基準範囲内のこともあり,おそらく感染量に依存している。血清および髄液の抗トキソカラ抗体検査により診断する。
ぶどう膜炎による硝子体混濁,網膜の白色隆起性病変などが典型である。末梢血好酸球や血清総IgEはむしろ上昇していないことのほうが多い。血清抗体は必ずしも陽性ではないので,可能であれば硝子体液や前房水など,局所液の抗トキソカラ抗体検査を実施する。眼型では眼科的所見のみで診断することもある。
蕁麻疹,好酸球性胃腸症,好酸球性心筋炎など,虫体の直接浸潤というよりもアレルギー反応が原因と考えられる病型である。末梢血好酸球,血清総IgE,血清抗トキソカラ抗体はともに高値である。
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