7歳のN君が入院したのは、小学校の心電図検診でV1誘導のT波が陽性であったことがきっかけであった。種々の検査から診断は「原発性肺高血圧症」となった。低学年児童であればV1誘導T波陽性で右室肥大を疑うことは知ってはいたが、当時の私にとって検診でこれほど重い病気がみつかったことは驚きだった。30年前は今ほど有効な肺高血圧治療薬はなく、結局N君は一旦退院となった。
数カ月後にN君は自宅で急変し救急車で搬送された。幸い車中で呼吸再開、到着後まもなく意識も回復し小児病棟に再入院した。
N君は聡明で明るく人懐っこい子であった。ある日ベッドサイドへ行くと漫画を読んでいる。その漫画を話題にすると「えー!先生も漫画読むの?」と嬉しそうである。実は息子も愛読しているのだと白状すると「先生の子、何年生なの?!」と興味津々。同じ2年生であることを知り大喜びであった。この日からN君とは友達になったのだと思っている。
一旦退院したN君だが、その後同様の急変を数回経験した。入退院を繰り返すごとにN君の笑顔がみられるまでの日数は長くなっていった。当時は「緩和ケアチーム」のない時代であり、N君が自分から急変を繰り返すことへの不安や恐れを口にすることはなかった。今思えば、おそらくN君は自分なりの覚悟もあったのではなかろうか。
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