アトピー性皮膚炎はバリア機能の破綻,かゆみ,Th2免疫応答の亢進が相互に作用し病態を形成する。
診断は瘙痒,左右対側性の湿疹性病変,慢性・反復の症状であり,比較的容易である。アトピー性皮膚炎患者に特徴的にみられるヘルトーゲ徴候(眉毛外側が薄い)とデニー・モルガン徴候(下眼瞼の皺)も診断の助けとなる。一方,以下の疾患を除外しておくことが必要であるため注意したい(ただし,合併することもある)。
除外する疾患:接触皮膚炎・手湿疹(アトピー性皮膚炎以外の手湿疹を除外するため),脂漏性皮膚炎・皮膚リンパ腫,単純性痒疹・乾癬,疥癬・免疫不全による疾患,汗疹・膠原病(SLE,皮膚筋炎),魚鱗癬・ネザートン症候群,皮脂欠乏性湿疹。
治療のゴールは,「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に記載されている。すなわち,「症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態に到達し,それを維持することである。また,このレベルに到達しない場合でも,症状が軽微ないし軽度で,日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持すること」を目標とする。
アトピー性皮膚炎の治療は,ステロイド外用薬が基本となる。ステロイド外用薬の使用は2つポイントがある。1つがFTU(finger tip unit),もう1つがプロアクティブ療法である。
FTUは,ステロイド外用薬や保湿剤を使用する上で重要な概念となる。一般的な軟膏剤のチューブ(穴の直径が5mm程度)の場合,大人の人差し指の一番先端から第一関節に載る量が約0.5gである。これを1 FTUと呼び,大人の手掌2枚分に外用する適量となる。ローションの場合,手掌に1円玉大の量をとり,それが両手2枚分の面積を塗る量となる。日常診療では,十分な量の外用薬が塗れていない場合を多く経験する。筆者が指導の際に用いているのが,軟膏を塗った部位にティッシュペーパーをあててみて皮膚につく量を外用する,という説明である。
もう1つのプロアクティブ療法は,タクロリムス軟膏の使用法として開発されたものであるが,ステロイド外用薬にも適応される。アトピー性皮膚炎の湿疹病変に対し,まずは強めのステロイド外用薬で症状をしっかりと抑え込む。副作用が心配のあまり早期に外用を中止してしまう患者がいるが,表皮の下の炎症が残存しているため湿疹病変がすぐに再発することが多い。そこで,見た目の湿疹が改善した後も,2週間~1カ月かけて外用の頻度を下げて継続する方法が,プロアクティブ療法となる。週に2~3回,ステロイド外用薬のランクと外用頻度を落とし,アトピー性皮膚炎のフレアアップを予防する方法となる。
ステロイド外用薬は,顔面に長期外用すると酒皶様皮膚炎などの副作用を起こすため,2週間以内の使用とする。代わりにタクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏を用いる。ステロイド外用薬と保湿を治療の基本とし,効果不十分な場合はナローバンドを用いた紫外線治療,シクロスポリンの内服,経口JAK阻害薬の内服,デュピルマブの注射を検討する。
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