生命に関わる大量喀血とそれ以外のものとにわけて述べる。大量喀血として出血量の定義はないが,推定で200〜500mL以上/日や50〜100mL以上/時で扱われることが多い。気道(A),呼吸(B),循環(C)に問題があれば,それらの安定化を最優先とする。ABCが安定している場合は,あわてず,真の出血源が気道であるかを見きわめることが肝要である。
既往歴では,慢性肺疾患(COPD,気管支拡張症,結核,囊胞性線維症など),がん,出血性疾患,心不全,胸部大動脈瘤(気管支動脈瘻など),肺腎症候群〔抗糸球体基底膜(GBM)抗体病,多発血管炎性肉芽腫症など〕等,喀血を引き起こす疾患を対象に含めて聴取する。薬剤では,抗凝固薬,抗血小板薬の使用を確認する。
以下の疾病を想起しつつ,各々の危険因子を聴取する。
結核,真菌感染症:HIV感染症,免疫抑制薬の使用,結核への曝露
がん:長期の喫煙歴
肺塞栓症:最近の不動状態または手術の既往,既知のがん,血栓の病歴,家族歴,妊娠,エストロゲンを含む薬剤の使用,最近の長距離旅行歴
気道吸引が頻繁に必要な状態に陥ったとき,COPDを合併していない患者が酸素投与下でもSpO2≧90%を維持できないとき,意識障害(GCS<9)に陥ったときは,確実な気道確保を目的とした気管挿管を躊躇しない(迷う場合は,挿管することを強く推奨する)。
ABCが安定している場合,以下の疾患を想起しながら症状等を丁寧に聴取しつつ診察を進める。
肺炎:発熱,喀痰
がん,結核:盗汗,体重減少,疲労,喫煙歴
結核:結核罹患歴,治療歴
肺炎,肺塞栓症:胸痛,呼吸困難
肺塞栓症:下肢痛,腫脹
抗GBM抗体型糸球体腎炎:血尿+進行性腎不全
多発血管炎性肉芽腫症:血性鼻漏
喀出物の性状(泡沫状や鮮紅色)から気道出血を疑うことも時に可能だが,咳により喀出されたものが上咽頭からの出血や吐血,鼻出血の場合もある。逆に,大量喀血を飲み込んだ後に嘔吐し,吐血と誤認することもあるため,胃管挿入や内視鏡検査による正確な出血源の確認を怠らない。
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