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勇ましい婆さん(五十嵐 豊)[プラタナス]

No.5122 (2022年06月25日発行) P.3

五十嵐 豊 (日本医科大学付属病院高度救命救急センター講師)

登録日: 2022-06-25

最終更新日: 2022-06-24

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  • 数多くある失敗談の中から、教訓になりそうなものを紹介したい。

    研修医2年目の雨の降る当直の夜、あるデパート前の交差点で、横断歩道の白線の部分で滑って転倒した70代女性が救急搬送されてきた。口腔内から出血が続いており、溜まった血液を数十秒おきに吐き出しながら、まったく動じずに勇ましい様子であったのが第一印象であった。口腔内を観察し、出血源がわかり局所麻酔をして縫合した。そこそこの出血を1人で止血できた達成感もあり、創部の処置だけをして帰宅させた。その1時間後、同じ女性が再度搬送されてきた。今度は帰宅途中にコンビニに寄って、一番下の棚から商品を取って立ち上がろうとしたときに、ふらっとして頭を打ったという。一晩に二度も救急搬送されるなんて、なんてそそっかしい婆さんなんだと思った。頭部CTを撮り問題がないことを確認し、気を付けて帰るように言った。

    半年後、心臓外科で研修をしていたときに、その女性と再会することになった。大動脈弁狭窄症に対して弁置換術を行うために入院し、それを知って愕然とした。一番下の棚から商品を取って立ち上がろうとして倒れたのは偶然ではなく、運動時に心拍出量が増えず失神したのかもしれない。感情によって認知や意思決定に歪みが生じて、見落としてしまったかもしれない。幸いなことに、弁置換術は無事に終わって元気に退院した。

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