現在の日本人は,世界で最も男女の平均寿命が長い集団であり,特に1990年以降その傾向が明確である。日本人における長寿化の要因は複雑であるが,長寿化による高齢者の健康度,あるいは身体機能などの向上に伴って,日本社会全体の生活機能の向上が出現することは明らかである。このような現象は,超高齢社会における高齢者の存在意義,すなわち,高齢者は単なる社会的弱者・負担としての集団なのか,あるいは有効な社会的資源として有望な集団なのかを見きわめる上でもきわめて重要な問題を含んでいる。
広く知られるように,高齢期の心身機能の変化を把握するための老化研究には,横断的研究,縦断的研究,そして定点観測的(時間差)研究が必要である。横断的研究にはコホート差というバイアスが存在し,真の老化をゆがめる。縦断的研究は優れた方法であるが,長期間にわたる研究では時代差というバイアスが含まれる。したがって,コホート差や時代差がどのように老化に影響しているかを補正するためには,定点観察的な時間差研究も不可欠となる1)。
本稿では,わが国の地域在宅高齢者における身体機能や日常生活動作(ADL)能力の経年的変化,つまりわが国を代表する老化に関する長期縦断コホート研究を統合したILSA-Jにより得られたデータを収集・分析し,2007~17年の10年間における変化を中心として,1992年以降25年間に及ぶ日本の地域在宅高齢者の健康水準の変化について紹介する。