わが国における窒息による死亡は,2019年に8379件発生しており,不慮の事故による死亡の中では転倒・転落・墜落につぐ多さである1)。窒息患者はわずか数分間で低酸素血症による意識消失から心肺停止に至る可能性がある。救命できたとしても重篤な神経学的後遺症を残しうるため,緊急度がきわめて高い病態である。
明らかな異物誤嚥のエピソードがあれば容易に診断できる。典型的には,食事中の突然の咳嗽,口に物を含んだ状態で突然驚いたり,笑ったり,走り回って転倒したときなどが挙げられる。異物誤嚥の場面が目撃されなかった場合でも,突然の咳嗽,呼吸困難,喘鳴,チアノーゼ,意識障害,原因不明の慢性咳嗽などをみた場合は,常に気道異物の可能性を念頭に置く。
身体所見では呼吸音の左右差や喘鳴の聴取が疑う契機となる。画像所見では,吸気時と呼気時の胸部X線撮影にて,縦隔動揺(Holzknecht徴候)や片側の肺野の大きさが変化しない所見を得られることがあるが,実施には患児の協力が前提となる。また,乳幼児が誤嚥しやすい豆類などは放射線透過性異物であり,これが主体であることも留意する。
「JRC蘇生ガイドライン2020」2)に沿った治療を行っている。
治療方針を組み立てる上でまず確認すべきことは,気道が開通しているかどうか(以下の①~③)である。また,気道開通の確認と並行して,人を呼び,救急カートやAEDの準備,救急医や麻酔科医など気道確保の専門家への連絡,高次医療機関への搬送手配を依頼する。
咳嗽を促したり,側臥位にしたりして様子を観察する。症状がよくならない場合は,患児を泣かせないように配慮しつつ,耳鼻咽喉科,小児外科,麻酔科と協力して全身麻酔下での気道異物除去を計画する。患児を啼泣させると急激に呼吸状態が悪化する恐れがあることに留意する。
成人や1歳以上の小児では,まず「背部叩打」を行う。背部叩打で異物が除去できなかった場合は,「腹部突き上げ」を行う。乳児(1歳未満の小児)では頭部を下げて「背部叩打」と「胸部突き上げ」を組み合わせて繰り返す。乳児の傷病者では「腹部突き上げ」は行わない。
ただちに「胸骨圧迫」から心肺蘇生を開始する。異物除去や胸骨圧迫を行っている途中で,傷病者の口腔内に異物が見えた場合は指で取り除くことを試みてもよいが,異物が見えない場合には盲目的な指による搔き出しを行うことは推奨されていない。医療従事者の場合はマギル鉗子を用いて異物の除去を試みてもよい。
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