【mRNAワクチンと同程度の有効性があるが,比較的弱い副反応,保管のしやすさなどの特徴がある】
ノババックス社からの技術移転により国内製造されたSARS-CoV-2ワクチン(NVX-CoV2373:ヌバキソビッド®)が承認されました。ファイザー社,モデルナ社のmRNAワクチン,アストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチンについで4種類目のワクチンとなります。SARS-CoV-2のスパイク遺伝子をバキュロウイルスに組み込んで昆虫細胞で発現させ,蛋白を精製し,アジュバントを添加した製剤(遺伝子組換え精製蛋白ワクチン)です。スパイク蛋白の開裂部に変異を導入し,986,987位にProの変異を導入することで,これまでの2社のmRNAワクチンと同様に,スパイク抗原がprefusionで安定した構造を維持するようにデザインされています。スパイク蛋白は3量体を形成しており,精製スパイク抗原5μgに,アジュバントが添加されています。
これまでのアラムに変わるアジュバントとして,キラヤサポニン(Quillaja saponin)に由来する,異なる成分のMatrix-AとMatrix-Cを混合した“Matrix-M”が開発されました。これに,コレステロール,ホスファチジルコリン等を添加することで,40nmの籠状の粒子を形成しています1)2)。サポニン系のアジュバントは免疫刺激複合体(immune stimulating complex:ISCOM)として,主に動物用のワクチンアジュバントとして使用されてきた歴史があります。サポニン系のアジュバントはTh1/Th2細胞の応答を誘導することにより,液性免疫,細胞性免疫を誘導するため,50歳以上の成人を対象に認可されている帯状疱疹ワクチンに使われています3)。
有効性・副反応については,英国,南アフリカ,米国,メキシコで行われた大規模第3相臨床試験の結果が報告されています4)。NVX-CoV2373群1万9714例,コントロール群9868例の無作為比較試験が行われて,そのうちワクチン群で14例,コントロール群で63例がPCR陽性・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断されました。有効率は90.4%〔95%信頼区間(confidence interval:CI):82.9~94.6%〕と報告されています。臨床試験期間中の主流行株はアルファ株であったため,デルタ株やオミクロン株に対する有効性が気になるところです。
免疫能の持続については,初回接種から126日まで安定した有効性が示されています。局所反応の副反応として,圧痛は50~70%,疼痛は30~60%に認められました。全身反応の副反応として,頭痛,筋肉痛,疲労は20~40%,倦怠感,関節痛は15~30%に認められ,発熱は10%以下と報告されました。また,国内試験でも同様の安全性が示されています。
接種後の副反応は,アジュバントの自然免疫応答によるもので,mRNAワクチンと比較して発現頻度は低いようです。しかし,mRNAワクチン接種後の心筋炎や血栓症といった副反応も,接種拡大により顕性化したことから,市販後調査による詳細な安全性のデータが必要になると思います。
接種にあたっては,3週間の間隔をあけて2回の接種を行います。免疫原性に関してはmRNAワクチンと同程度の有効性を示しています。免疫能の持続期間に関しては,前述の臨床試験の結果から,また,精製蛋白にサポニン系のアジュバントを添加した従来の帯状疱疹ワクチンに近いものなので,ある程度長期間持続することが期待されます。さらに,mRNAワクチンと比べて副反応が少ないことから,副反応を恐れてSARS-CoV-2ワクチンhesitancy(忌避)で接種を控えてきた方には朗報かと思います。
なお,当該ワクチンの3回接種の成績も報告されており,mRNAワクチンで初回免疫後に当該ワクチンを接種しても,有効性・安全性には大きな懸念はないと考えられます。
世界人口のほぼ50%にSARS-CoV-2ワクチンが接種されたと言われていますが,ほとんどが欧米をはじめとした先進国で,発展途上国では接種が遅れています。遺伝子組換え精製蛋白ワクチンは2~8℃で9カ月間保管できることから,これからのパンデミック対策の鍵を握っていると言えます5)。
【文献】
1) Reimer JM, et al:PLoS One. 2012;7(7):e41451.
2) Bangaru S, et al:Science. 2020;370(6520): 1089-94.
3) Didierlaurent AM, et al:Expert Rev Vaccines. 2017;16(1):55-63.
4) Dunkle LM, et al:N Engl J Med. 2022;386(6): 531-43.
5) Dolgin E:Nature. 2021;599(7885):359-60.
【回答者】
中山哲夫 北里大学大村智記念研究所特任教授