前回(その1,No.5122掲載)では,2017年に国立長寿医療研究センターが行った,老化に関する長期縦断コホート研究を統合した「長寿コホートの総合的研究」(Integrated Longitudinal Studies on Aging in Japan:ILSA-J)による身体機能および日常生活動作能力(ADL)の経年的変化に関するデータを収集・分析し,2007~17年の10年間における変化1)を中心に,1992年以降,25年間に及ぶ地域在宅高齢者の健康水準の変化を解説した。
本稿でも,同じように,ILSA-Jの分析から,フレイルおよび認知機能低下の有病率についての経年変化を紹介する。
『フレイル診療ガイド 2018年版』(日本老年医学会・国立長寿医療研究センター)によれば,「フレイル」とは,「加齢に伴う予備能力の低下のため,ストレスに対する回復力が低下した状態」であり2),身体的脆弱性のみならず精神心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく,健康障害あるいは要介護状態をまねきやすいハイリスク状態を意味する。したがって,フレイルは高齢者の身体的,精神・心理的そして社会的領域の3つのドメインを含む,生活機能全体の低下そしてQOL(生活の質)の低下に関わる包括的な概念ととらえることができる(図1)。
これらフレイルの3つのドメインは相互に関連し,適切な介入のない限り「障害」へと機能低下が進行する一方,適切な予防対策をすると,元の健康な状態に戻ることが大きな特徴である。図1に示されるように,身体的フレイルには低栄養,ロコモティブシンドローム,特にサルコペニア(加齢性筋肉量減少症)などが含まれ,精神・心理的フレイルには認知機能低下あるいは軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)などが含まれている。
本稿で紹介するのは,ILSA-Jから共通に得られた測定データの中から,2012±1年と2017±1年の2時点におけるフレイルおよび,2010年と17年の2時点における認知機能について,対象者(被験者)数,性別,年齢階級(5歳階級)別の平均値±標準偏差,最大値,最小値等を収集し分析した研究である3)4)。
本研究で用いられた,フレイルに関する操作的定義あるいは判定方法は,改定前の日本版フレイル基準(J-Cardiovascular Health Study:J-CHS)5)に依っている。すなわち,
①体重減少:6カ月で2kg以上の(意図しない)体重減少。
②筋力低下:握力測定で,男性<26kg,女性<18 kg。
③疲労感:(ここ2週間で)わけもなく疲れたような感じがする。
④歩行速度:通常歩行速度測定で,<1.0m/sec(男女とも)。
⑤身体活動:(1)軽い運動・体操をしているか,あるいは(2)定期的な運動・スポーツをしているか,に対し上記のいずれも「週に1回もしていない」と回答。
これら5項目のうち,3項目以上に該当する場合をフレイルと定義している。
また認知機能については,2010年,17年に測定されたMMSE(Mini Mental State Examination)得点の性別,年齢階級別の代表値(平均値・SD)および,23点以下・28点以上の高齢者の割合を収集した。本研究において,23点以下を「認知機能低下者」と判定した。
統計的分析方法についての詳細は関連論文1)~3)にゆずるが,測定された変数はいずれも観察した2点間でのプールされた平均値±標準偏差を算出している。前回でも記述したが,このようなプールされたデータのメタ解析では常にコホート間の異質性(heterogeneity)が問題となる。「長寿コホートの総合的研究」(ILSA-J)においても,異質性についてはコクランQ検定およびI2統計量を算出し,異質性が大きい場合にはランダム効果モデルを用い,小さい場合には固定効果モデルを用いて,有病率±95%CIを算出している。