水痘は,水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)の初感染により,発熱とともに紅斑,丘疹,水疱,痂皮などの様々な段階の発疹を認めることが特徴であり,その感染性はきわめて高い。2014年に水痘ワクチンが定期接種化されて以降,日本での感染者数も著明に減少した。しかし,免疫正常者であっても黄色ブドウ球菌やA群β溶血性連鎖球菌などによる二次性細菌感染症,肺炎,急性小脳失調症や脳炎,脳梗塞などの中枢神経系合併症をきたすことがあり,注意を要する。また,免疫不全者における重症化リスクの高い疾患であるが,一方で免疫不全者は水痘ワクチンを接種できないため,社会全体での集団免疫により流行を抑制し,免疫不全者が罹患する機会を減らすことが非常に重要である。
診断に最も重要なのは,周囲からの曝露歴を含む病歴や,水痘ワクチン接種歴に加え,臨床症状を考慮して,事前確率の見積もりを高めることである。臨床診断が最も重要であることは言うまでもないが,病歴や身体所見からの鑑別が難しい症例や院内感染管理に関わる症例,宿主が免疫不全者などである場合は,確定診断のための検査を積極的に考慮する。検査はVZV迅速抗原検査や核酸増幅検査(PCR検査など)で行う。血清学的診断も可能であるが,迅速性には劣る。
水痘と診断した場合には,早期の抗ウイルス薬投与が有効であり,米国では発症24時間以内,日本では48時間以内が推奨されている。免疫正常な小児(新生児や思春期の小児を除く)では,必ずしも抗ウイルス薬による治療を要さないが,特に免疫不全者や妊婦の場合は,可及的速やかに抗ウイルス薬を開始することが肝要である。また,分娩前5日以内から分娩後2日までに妊婦が水痘を発症した場合の新生児や,免疫不全者は重症化のリスクが高いため,免疫グロブリン製剤の曝露後予防投与が推奨される。
水痘に対する抗ウイルス薬には,アシクロビル(内服薬,点滴薬)およびそのプロドラッグであるバラシクロビル(内服薬)があるが,患者の免疫状況や重症度,臨床経過により投与方法や投与期間は異なる。その治療の実際を以下に示す。
アシクロビルやバラシクロビルを使用する場合,腎障害のある患者や腎機能が低下している患者では,用法・用量を調整する必要がある。また,一方で薬剤そのものに腎毒性があり,急性尿細管性間質性腎炎(acute tubulointerstitial nephritis:ATIN)や結晶誘発性腎症(crystal induced nephropathy)などの急性腎障害をきたすので,注意が必要である。
アシクロビルは点滴で静脈内投与をする場合,製剤として2.5mg/mL以下の濃度に稀釈するとともに,強アルカリ性(pH 10~11程度)であることを認識し,確実に確保された血管ラインから投与する必要がある。点滴漏れに注意して管理する必要があり,可能であれば,中心静脈ラインを確保するほうが安全である。
対症療法として,解熱鎮痛薬を使用する際は,サリチル酸製剤(例:アスピリンなど)の使用は避ける。
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