耳硬化症は,両側性,時に片側性の進行性伝音難聴を呈する非炎症性のアブミ骨固着疾患である。前庭窓前縁の迷路骨包にある裂隙(fissula ante fenestram)を中心に海綿状骨増殖と骨硬化性病変が生じ,この病変がアブミ骨底板に及ぶとアブミ骨が固着して伝音難聴を生じる。病変が蝸牛まで進行した場合には,伝音難聴に加えて感音難聴も合併する(混合性難聴)。本疾患は白人に多く,特に30~40歳代の女性に多い。日本人では比較的稀な疾患であり,適切な診断を行うために注意が必要である。
主な症状は難聴であり,耳鳴を伴うことも多い。症状は緩徐に進行するが,女性では妊娠や分娩を契機に悪化することがある。また,静かな環境よりも騒音下で会話を聞き取りやすいという特徴的な現象がある(Willis錯聴)。
鼓膜所見は正常な場合が多いが,進行例では鼓室岬角粘膜の充血が透見されることもある(Schwartze sign)。純音聴力検査では,低中音域に気骨導差を示す伝音難聴と2000Hzの骨導聴力の悪化(Carhart notch)を認める。典型例ではティンパノグラムでAs型を示し,耳小骨筋反射は消失する。側頭骨CTでは前庭窓前部に骨脱灰像を認めることがあり,進行例では蝸牛周囲の骨吸収によるdouble ring signを呈することもある。
耳硬化症に伴う伝音難聴には,補聴器およびアブミ骨手術が有効である。難聴が軽度で生活に支障がない場合には,定期的な通院により難聴進行の有無について確認する。生活に支障があれば,まずは補聴器を試用してもらい,満足が得られれば補聴器装用で対応する。
手術を希望する場合は,最初に症状の強い側から検討する。アブミ骨手術の成功率は高いが(80~90%),その一方で術後合併症として1%に内耳障害による高度感音難聴(聾)や回転性めまいを生じる可能性があり,手術適応決定やインフォームドコンセントには配慮が必要である。筆者らは平均気導聴力が40dB以上,気骨導差20dB以上で手術を検討するが,鼓膜の陥凹・癒着やメニエール病合併例,一側聾の良聴耳(only hearing ear)に対するアブミ骨手術は適応外と考えている。
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