肺吸虫症は,淡水産のカニやイノシシなどに寄生するメタセルカリアを経口摂取することで感染する寄生虫症である。肺吸虫は日本,中国,韓国,西アフリカ,米国など世界中に広く分布する。海外渡航中の感染だけでなく,国内での感染例も少なくない。肺結節や胸水貯留など様々な陰影を呈するので,肺結核や肺癌との鑑別を要する。病歴,虫卵検査,血清学的検査などから診断できれば,内服薬により保存的に治療することができる。本症を想起できなかった場合,不適切な治療や不要な手術が行われてしまうこともある。肺結節や胸水貯留をきたす症例では,本症を鑑別に入れ,適切な問診をすることが重要である。
肺吸虫のメタセルカリアは,サワガニやモクズガニなど淡水産のカニや,イノシシ肉,シカ肉などに含まれている。これらを経口摂取することにより感染するため,問診では生食歴を詳細に聴取する。
ヒトへ感染したメタセルカリアは,小腸上部,腹腔内,腹筋内,腹腔内,胸腔内,肺へと移行する。感染から3週間は腹腔内を移行し,この間は多くが無症状である。肺へ移行すると虫卵排泄が始まり,咳嗽,喀痰,血痰などを生じる。胸膜炎や気胸をきたすと胸痛や呼吸困難を呈することもある。本来の寄生部位とは別の部位に移行すると,肺外肺吸虫症として,移動性皮下腫瘤(皮膚肺吸虫症)や髄膜炎(中枢肺吸虫症)を生じる。また,外科手術の際に腸間膜,肝臓,腎臓,リンパ節,横隔膜,泌尿生殖器などの腹腔内臓器に偶然見つかることもある。
血液検査では末梢血好酸球増多や血清IgE値上昇がみられるが,感染から時間が経過するにつれて減少するため,これらがなくても否定はできない。画像所見は様々な陰影をとり,胸水貯留,気胸,浸潤影,結節影,空洞影など非特異的である。無症状で胸部異常陰影により発見される症例もある。
確定診断は,喀痰,気管支肺胞洗浄液,糞便の虫卵検査により行うが,感度は高くない。補助診断として,血清や胸水による肺吸虫特異的抗体を検出する免疫診断が有用である。虫卵が検出されない場合は,食歴や渡航歴,血清学的検査の結果から総合的に診断する。
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