滲出性中耳炎は急性炎症を伴わず中耳貯留液を認める状態であり,「鼓膜に穿孔がなく,中耳腔に貯留液をもたらし難聴の原因となるが,急性炎症すなわち耳痛や発熱のない中耳炎」と定義される1)。小児において就学前に90%が一度は罹患する中耳疾患であり,小児難聴の最大の原因である。言語発達,学業や行動上の問題に影響を及ぼす可能性がある1)。
小児滲出性中耳炎は,周辺器官の炎症病変との関連性の中でとらえるべき疾患であり,治療の対象には中耳貯留液や鼓膜の病的変化だけでなく,鼻副鼻腔などの周辺臓器の病変も含まれる。
小児滲出性中耳炎は,感冒罹患時や急性中耳炎罹患後に発症する場合が約50%と多い1)。
主な症状は難聴,耳閉塞感であるが,症例の多くが就学前の小児であり,正確な聴力の把握が困難な場合もある。したがって,保護者からの詳細な問診が重要であるが1),保護者が気づいていないことも多い。
診断には顕微鏡や内視鏡を用いた鼓膜の観察が重要であるが,気密耳鏡やテンパノメトリーは,客観的な中耳貯留液の診断に有効である1)。
幼少児では聴力検査が施行困難なことも多い。診察時の聴覚印象や言語発達の観察,気密耳鏡やテンパノメトリー,画像検査などによる側頭骨乳突蜂巣発育程度の確認などで,おおよその聴力閾値を推定する1)。そして難聴が疑われる場合は,ABR(聴性脳幹反応)を含む精密聴力検査が可能な施設への紹介を検討する。
中耳貯留液が起こす難聴を可及的早期に改善すること,鼓膜の病的変化(鼓膜緊張部もしくは鼓膜弛緩部の高度の内陥,耳小骨の破壊,鼓膜が薄くなる,鼓膜硬化症,癒着など)とその後遺症を予防することを目的として治療される1)。
本疾患の95%は自然治癒するとされ,国内外から報告されている小児滲出性中耳炎ガイドラインでは,鼓膜の病的変化がなければ,発症から3カ月間は手術加療を行わず,watchful waitingが勧められている。
このため,まずはアレルギー性鼻炎や鼻副鼻腔炎などの周辺臓器の炎症疾患があれば,それらの加療を行う。一方,2~3歳未満では,しばしば反復する急性中耳炎の関与が大きいので,この年齢では急性中耳炎としての対応を優先する。
watchful waiting期間を経過しても改善しない例で,鼓膜のアテレクタシスや癒着などの病的変化が出現した場合,ならびに良聴耳の聴力が30dBを超える聴力障害を示す場合,外科的治療(鼓膜換気チューブ留置術が第一選択)が適応になると考えられる1)。
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