乳様突起炎は,急性化膿性中耳炎から続発し急性炎症症状を示す急性乳様突起炎(acute mastoiditis),急性炎症症状や所見に乏しいまま遷延する隠蔽性乳様突起炎(masked or latent mastoiditis)と慢性乳様突起炎(chronic mastoiditis)に分類される。急性乳様突起炎では,耳痛,発熱,難聴などの中耳炎症状が増悪し,耳後方の疼痛と腫脹を呈する。炎症が高度な場合は,顔面神経麻痺や内耳炎など神経障害の合併をきたす。また,乳突蜂巣の骨破壊から側頭骨外に炎症が波及すると,骨膜下膿瘍,皮下膿瘍を形成し,S状静脈洞血栓症,硬膜外膿瘍,髄膜炎など頭蓋内合併症を引き起こすことがある。特に乳幼児では乳突蜂巣が未発達であるため,乳突洞の炎症が容易に周囲臓器に波及する。隠蔽性乳様突起炎は,患者の免疫状態や抗菌薬の不十分な投与などにより急性炎症が治癒に至らず,乳突腔に炎症が孤立,潜在化したもので,急性炎症所見は目立たず,頭蓋内合併症症状で発見される場合もある。慢性乳様突起炎は真珠腫性中耳炎の合併によって生じるものが多い。いずれの場合も頭蓋内合併症の危険性があるが,急性期の対応が重要となるため,以下は,急性乳様突起炎について述べる。
耳痛,耳漏,発熱がみられる。合併症の程度によっては頭痛,嘔気,視力低下などもきたすので,これらにも留意して問診する。
耳鏡所見で,鼓膜の発赤腫脹や耳漏がみられる。炎症が外部へ波及すると生じる耳後部の腫脹(耳介聳立)は特徴的である。炎症が内部へ進展する場合,耳介聳立はみられないが,S状静脈洞血栓症や髄膜炎など,頭蓋内合併症を生じていることもあり,注意が必要である。
血液検査で白血球増多(好中球優位),CRPの上昇など炎症反応の上昇を認める。炎症の波及範囲を把握するため,造影CTは必須であり,膿瘍形成の有無,S状静脈洞血栓症の有無を確認する。血栓形成の評価にはCT venographyやMR venographyが有用である。骨条件CTでは骨破壊の有無をみて,病変の進展方向を確認する。
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