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特集:認知症の人への医療行為に対する意思決定支援

No.5146 (2022年12月10日発行) P.18

樋山雅美 (京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学)

成本 迅 (京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学教授)

登録日: 2022-12-09

最終更新日: 2022-12-07

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樋山雅美:2018年関西大学大学院心理学研究科修了後,京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学入職。現在,同研究科特任助教。認知機能検査や意思決定支援,金融業界における認知症対応に関する研究に従事。

1 認知症と意思決定
治療方針の決定においては,治療内容の複雑さによって,患者に求められる理解力や判断力は異なる。また,本人が同意しているように見えても,その同意が有効なのか,不確かな場合が多い。
意思決定の課題は,認知機能障害が背景にあることが多い。特に,記憶障害(一定時間覚えていられない,あるいは新しい情報を覚えられない)や,実行機能障害(目的や状況に応じた行動や思考の切り替えが難しい)の影響が大きい。

2 意思決定能力
認知症の症状の有無にかかわらず,本人には意思決定能力があると考えて支援にあたることが求められる。
意思決定能力は「理解」「認識」「論理的思考」「選択の表明」の4要素で評価され,治療同意に関する意思決定能力の評価ツールとして,MacCAT-Tがある。
意思決定能力は支援者の支援力によっても変化するため,本人の残存能力を活かすことができるような働きかけを行う必要がある。
意思決定能力を補完する工夫として,記憶障害に対しては,説明資料を用いたり,周囲の人に繰り返し説明してもらうよう頼んだりするようなサポートが必要である。実行機能障害に対しては,答えてほしいことを明確にし,参考になる情報をわかりやすく提示するようなサポートが必要になる。

3 終末期の医療について話し合うタイミング
認知症が進行すると,肺炎や発熱,摂食嚥下障害等による死亡リスクが高まる。一方,認知症の人の生命予後を予測する方法が確立されておらず,終末期に起きる様々な症状や状態における治療意思をあらかじめ聞いておくというような対応はなされていないことが多いが,末期には言葉の理解や発語も困難になるため,認知機能が保たれているうちから,本人の意向を聴取しておく必要がある。
軽度認知障害(MCI)は,軽度の認知機能障害が認められるものの,自力での意思決定が可能であることが多い。MCIの段階から,今後想定される疾患や必要になる治療について,本人の意向を確認しておくことも必要である。
意向確認は,病状や本人を取り巻く環境が変化するたびに行うべきであり,話し合った内容は記録に残しておく必要がある。

4 治療方針の決定プロセス
患者本人による治療方針の決定が基本原則であり,医療同意能力が不十分な場合であっても,本人の意向をもとに話し合う。
本人が決められないときは,家族等の本人をよく知る人たちや,これまで関わってきた専門職により本人意思の推定を行う。
身寄りがない場合には,医療同意権は持たないが,成年後見人の意見を聞くことや,家族ではなくても本人と関わりのあった人物(友人・知人等)から情報を得ることは,有用である。

5 複数の専門家で話し合うときの注意点
チームでの話し合いにおいては,主治医の考えを追認するだけになったり,十分な検討を経ずに多数派の意見が採用されたりすることで,責任の所在があいまいになることがある。
自分の職域の専門性に基づく発言だけでなく,他の分野についても気づいたことは発言するような態度が望まれる。
発言の順序を工夫するなどして,全員が意見を述べられるような進行を心がける。

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