東日本成人矯正医療センター(東京都昭島市)は、旧八王子医療刑務所(通称・八刑)を母体として2018年1月に開設された。八刑からセンターへの施設移転は、初代センター長に任命された奥村さんにとって多くの困難を伴う一大事業だった。
「移転した瞬間に紙カルテから電子カルテにすべて切り替えるのが特に大変でしたね。スタッフも『自分の脳みそを入れ替えるくらい大変だった』と言っていました。電子カルテも処遇情報などを加えた矯正医療バージョンを作らなければいけないので一般的なプログラムが使えず、管理も閉鎖的な回線でしないといけないという制約がありました。移転の直前に、入力していたはずのカルテの情報が入っていないことが分かった時は頭が真っ白になりました」
患者の搬送は、逃走を防ぐため、救急車を15台ほど用意し、警察の協力も得て信号をすべて止め一気に行った。「前例のない、道なき道を行くような事業でしたが、なんとか事故なく完了させることができました」
移転先の昭島市の住民には当初移転に反対の声もあったが、説明を繰り返し、職員が市のイベントを手伝うなどの協力も重ね、徐々に住民の信用を得てきた。2021年度には昭島市と「大規模災害時の施設利用に関する協定」を締結。現在、センターは台風などの災害時に避難所として利用されている。
奥村さんは新型コロナ感染症対策でも陣頭指揮を執り、センター内のクラスター発生を防ぐとともに、他の刑事施設で発生した重症化リスクの高い患者の受け入れを積極的に行った。これらの取り組みや矯正医療への長年にわたる貢献が評価され、奥村さんは2021年度の人事院総裁賞受賞者に選ばれた。
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