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【匠が教える東西医学部傾向と対策 特別編集〔海外編〕】海外医学部進学を目指す新たな選択肢としての可能性と各国の違い〈解説:イタリア医学部予備校〉[日本医事新報特別企画 医学部進学ガイド「医学部への道2026」]

No.5259 (2025年02月08日発行)

登録日: 2025-02-19

最終更新日: 2025-02-18

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医学部人気の高まりを受け、医学部受験はここ15年で劇的に難化しました。
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国内の医学部進学は長らく「医師になるための唯一の道」と考えられてきたが、グローバル化の進展により、新しい選択肢として海外の医学部進学を検討するケースが増えている。英語による授業や多国籍の学生との交流が国際的な視野を広げ、キャリアの選択肢を広げる原動力となるだけでなく、経済的なメリットを享受できる場合もある。複数の大学と提携し、入試対策や渡航後の現地生活のサポートも手厚いイタリア医学部予備校が、海外医学部進学のトレンドや経済的・教育的なメリットに加え、各国医学部の特長、日本で医師資格を取得する際のステップまでを徹底解説する。

日本の医学部の高い壁となる「競争率」と「学費」

令和6年度に文部科学省が発表した統計によると、日本国内の医学部は全81校、約9500人の募集定員に対し、約12万人が受験。合格率は全国平均で約8%程度と非常に狭き門となっている。学費も国内の医学部進学の大きなハードルとなる。国立大学の学費は6年間で約360万円前後だが、私立大学では平均3200万円、一部の大学では4000万円以上に達する場合もあり、高額な学費が、多くの家庭にとって経済的負担となるため、医学部進学を断念するといったケースもある。こうした医学部進学の壁を前に、新たな選択肢となるのが海外医学部進学である。

海外医学部進学の特長

海外医学部進学の大きな特長は下記4点である。

①入試の門戸が広い

入試の重点ポイントは国によって異なるが、偏差値重視の日本の入試とは異なり、学生一人ひとりの適性や能力を多面的に判断する国が多い。科目試験の点数だけでなく個性や将来性といった点が重視されるため、基礎的な理系知識や論理的思考力を試す問題が出題されることが多く、難解な数学・物理などの問題に苦手意識のある生徒にとっては挑戦しやすい入試と言える。

②学費が比較的安価

国内、特に私立大医学部では6年間の学費総額が平均3200万円に上り、高額な費用負担が強いられる。海外医学部はこれらと比較すると学費が抑えられていることも大きな魅力だ()。


③卒業後に日本の医師免許取得も可能

医学部入学後に学ぶ内容は、海外大と国内大学で大きな違いはない。海外で医学を学んだ場合でも、日本の医師国家試験に合格すれば日本で医師として働くことが可能となる()。医師国家試験を受験する際、海外の医学部を卒業した場合は、厚生労働省が実施する個別審査を受ける必要がある。この審査において適切な基準を満たしていると判断されれば、日本語診療能力調査を経て医師国家試験の受験資格が得られる。一方、基準を満たさないと判断された場合には、予備試験の受験や、1年以上の実地修練が必要となる場合がある。

 

④様々なキャリアパスが選択できる

上記の通り、日本の医師国家試験を受験し、日本国内で医師として働く道はもちろんのこと、卒業した国での医師免許を活かし、そのまま現地の病院や医療機関で働くことも可能。WHOや国連・国境なき医師団といった国際機関で、医師や医療関連の専門家としての活躍を目指すこともできる。

国・地域ごとの医学部入試と制度

一口に「海外医学部」と言っても、国や地域によって入学の難易度や学費、学習環境は大きく異なる。英語圏のアメリカとイギリスは進学の難易度が非常に高いことで知られている一方、比較的進学がしやすい国として東ヨーロッパではハンガリーやチェコ、ポーランド、西ヨーロッパではイタリアやマルタ、アジアでは中国やフィリピンなどが挙げられる。これらの国々では、日本人向けの説明会やサポート体制が整備されており、医師を志す学生にとって恵まれた環境と言えるだろう。

①アメリカ合衆国の医学部

アメリカの大学にはいわゆる「医学部」がなく、医学教育は大学院レベルの「メディカルスクール」で行われる。まず一般の大学を卒業し、その後メディカルスクールに進学する必要があるが、メディカルスクールには多額の税金が投入されており、卒業後にアメリカに貢献する人材を優先的に育成することが基本方針であること、一部の州立大学が外国人の入学を制限していることなどから、アメリカ国籍を持たない外国人が入学するのは非常に困難と言える上、試験では大学時代の成績やエッセイ、推薦状、課外活動、テスト、面接など多面的な審査が行われる。学費は非常に高額で、大学とメディカルスクールを合わせると約3000~5000万円程度に上る。メディカルスクール卒業後はUSMLE(United States Medical Licensing Examination)という3段階(Step1〜3)の国家試験に合格することで医師免許が取得できる。アメリカで医師になる道のりは長く険しく、学費も高額なため、計画的な準備や情報収集、奨学金の活用など戦略的な対策が必要になる。

②イギリスの医学部

イギリスの医学部の教育は主に英語で行われ、外国人が入学するためには高校卒業資格と”Aレベル”という名称の試験または同等の資格が必要となる。語学要件も厳しく、IELTS7.0以上のスコアが求められるのが一般的。留学生の場合、授業料は国立大学で年間約500~700万円程度となる。毎年秋頃にイギリスの総合出願機関であるUCAS(Universities and Colleges Admissions Service)を通じて最大4つの医学部へ出願し、7〜10月頃に受験するUCATやBMATといった試験のスコアと、志願書や推薦状、面接などによって合否が決まる。イギリスには約40の医学部があり、卒業後はイギリスで医師として働くことができるだけでなく、英語での医学教育を生かしてさまざまな国での就業が可能となる。

③中国の医学部

中国の医学部は大学によって5年制の医学部や東洋医学を学ぶ大学もあるため、将来的に日本での医師免許取得を希望する場合は、厚生労働省の個別審査基準を満たすカリキュラムかを注意して確認する必要がある。中国語で学ぶ大学と、英語で学ぶ大学の2通りがあるのも特長の一つ。日本に事務局を設置している大学は留学生へのサポート体制が充実している大学が多い。一例として、北京大学では授業は中国語が中心だが、事務局での語学学習を通じて語学要件を満たしてから渡航する学生が多い。同大学医学部への進学時には、合格後に「医学部進学コース」への参加が必須となり、東京で中国語や理数系科目を学び、現地での生活や学習に備えることができる。英語で学ぶ医学部の大学は復旦大学や吉林大学など全部で44校。復旦大学は西洋医学のプログラムを英語で提供しているため、南アジアの留学生が多く在籍している。学費は100〜150万円程度の大学が多く、経済的なメリットも享受できるため、中国語学習に抵抗がない学生にとっては非常によい環境と言える。

④イタリアの医学部

イタリアには英語の医学プログラムを提供する大学が国立私立合わせて21大学あり、EU圏外の留学生枠として960名分の枠が設けられている。ミラノ大学やボローニャ大学といった名門国立大学をはじめ、医学と工学を同時に学位取得できるダブルディグリーなど最先端のプログラムが提供されるため、ハイレベルな環境を求めて、多様な背景を持つ留学生が世界中から集まり、幅広い視野と経験を得ることができる。イタリアの医学部を卒業後はEU圏内で有効な医師免許を取得でき、イタリア国内だけでなくドイツやフランスなどEU諸国でも医師として働くことが可能。入学試験には日本の高校卒業が受験資格として認められるIMAT(イタリア国公立英語医学部共通入学試験)が用いられ、試験が日本の共通テストに似た方式であることから、日本の大学と併願する学生も多い。学費は国公立大学で年間約30万円、私立大学でも約300万円程度と、日本の私立大医学部に比べ非常に安価である。また、平均卒業率が90%以上である点も大きな特長だ。

⑤ドイツの医学部

ドイツの医学部は主に授業はドイツ語で実施されている。外国人が入学するためには、母国の大学で2年以上の教育を受けることか、高校卒業後1年間の予備コースを経ていることが要件となり、語学要件もドイツ語のCEFR C1レベルが求められる厳しいものとなる。日本には入学をサポートする事務局がほとんど存在せず、入学手続きを独力で行う必要もあるため進学のハードルは非常に高い。国立大学の授業料は無料または年間10万円程度、私立大学では年間300万円程度と学費は安価な場合が多い。入試は書類審査が中心で、高校の成績が重視される。ドイツには約35の医学部があり、すべて併願が可能。特に人気のある大学として世界ランキングでも30位代と上位に位置するハイデルベルク大学、ミュンヘン大学、ベルリン大学などがあり、卒業後はドイツで医師として働くことはもちろん、スイスを筆頭にその他EU加盟国など、ドイツ語が公用語である国々での就業も容易となる。

⑥ハンガリーの医学部

ハンガリーの医学部は、早期から英語のプログラムをスタートしており、既に多くの日本人卒業生がEU内外で医師として活躍している。学費が抑えられる点も魅力で、年間授業料は約250万円程度と、国内の私立大医学部と比較して経済的負担が軽い。現在ハンガリーでは、国立センメルワイス大学、ペーチ大学、セゲド大学、デブレツェン大学の4大学で英語の医学プログラムが提供されており、入学前には英語や生物、化学、物理の基礎を学べる1年間の予備コースが各大学で用意されているため、予備コースから本科コースへの進学率は90%以上と高く基礎学力に不安がある学生でも安心して挑戦することができる。入学試験は一次審査と二次審査があり、年間で10回程度実施される一次審査では筆記審査(英語と生物/化学/物理より2科目選択)と面接を、二次審査では筆記試験(生物/化学/英語)と面接を受験することとなる。各大学の募集人数は予備コース25名、直接大学に進学する本科コース5名と、4大学合わせて120名の募集枠が設けられている。入学後の勉強は厳しく、6年通してのストレート卒業率は30%前後、退学率は約30%と厳しい面も持ち合わせていることにも注意が必要だ。卒業後はEU圏内で有効な医師免許を取得できる。

⑦チェコの医学部

チェコでは、国立マサリク大学や国立カレル大学が英語医学部のコースを提供している。それぞれ予備コースに15〜20名、本コースに10名分の日本人枠が設けられており、5回程度実施される一次審査では筆記審査(英語と生物/化学/物理より2科目選択)と面接、4月中旬頃に実施される二次審査では理系3科目の選択問題と英語での面接を受ける。各大学の年間学費は250〜300万円程度で、生活費を含めても6年間で3000万円程度に収まる点も特長の一つ。入学後3年生までは主に座学の講議で、基礎医学や解剖学、組織学などを学習し、4年生からは病院実習で臨床科目を一通り学習する。学期中の試験に加え、期末試験では筆記試験だけでなく口頭試験も行われる。6年通してのストレート卒業率は30%前後と厳しい一面もある。

入念な情報収集と吟味が必要

国際性がますます重要視される現代社会において、医師を目指す学生にとっては国内の医学部だけでなく、海外の医学部への進学も非常に有効な選択肢となり得る。特に英語で医学を学ぶことは、国内外での臨床や研究など、将来医師になってからの活躍の機会を大きく広げることに寄与する。近年、大学公認の事務局を設置し、日本からの学生を積極的に受け入れている国も増えているため、海外医学部への進学は以前よりも手の届きやすいものとなっている。一方で、国ごとの入試の方法や学費の違い、一部の国では留年率や退学率が高く、卒業が容易ではないといった事実も念頭に置く必要がある。海外の医学部進学を考える場合には、各国の正確な情報を集め、その国の教育環境や支援体制を慎重に吟味することが重要になるだろう。

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