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決して諦めない(渡會伸治)[プラタナス]

No.5149 (2022年12月31日発行) P.3

渡會伸治 (石川町内科クリニック院長)

登録日: 2022-12-31

最終更新日: 2022-12-27

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Yさんは50歳代の男性であった。私が大学病院勤務時代に、関連病院から私宛に紹介された。たまたま学会で留守をしていたため、代わりの初診医が外科手術の適応なしと判断し、紹介病院に返してしまった。数日後たまたま別件でその病院を訪れた際、Yさんは私の来院を聞きつけ私に面会を求め、なぜ手術してくれないのかと迫ってきた。私は、差し出されたCT画像(写真)をみて、肝内はがんばかりでこれは酷いと思いながらも、肝臓の一部に健常部分があり、化学療法と多段階肝切除術(当時私の研究テーマであった、肝再生能を利用して複数回の肝切除を行い根治をめざすというもの)で、うまく治療できるかもしれないと考えた。そこで、大学病院に転院してもらった。

まず化学療法を行い、奏効したので1期切除〔肝外側域切除と内側区域の腫瘍のマイクロ波凝固療法(MCT焼灼)〕を行った。さらに化学療法を行い、3カ月後に2期切除(前区域切除ならびに後区域部分切除)を行った。残存肝はS1、S4とS6の一部だけの状態となったが、術後大きな合併症もなく退院できた。しかし、2回目の手術から5カ月後に脳転移がみつかり、切除とγナイフの併用で、なんとか肉眼的完全治癒の状態となった。その後も化学療法を定期的に行った。残肝再発も他臓器再発も認めず、術後3年は小生の外来で診させてもらった。その後大学を辞したため、後輩に以後のフォローは任せた。

ある日、転勤先の病院に勤務していた頃に、奥様が突然来院され、Yさんの死を知った。2期切除後108カ月生存し、腎不全で亡くなったとのことであった。誠に残念であったが、よく頑張られたと思った。奥様からも大変感謝されたことを今でも鮮明に覚えている。

この症例から学んだことは、大腸癌の肝転移は決して諦めてはならない、ということだ。化学療法も進歩したため、これと併用しながら、再生能の強い肝臓を複数回にわたって切除して根治をめざすことが可能になったのである。

決して諦めない、最期まで最善を尽くすことが、がん治療の基本と考えている。開業した今でも、セカンドオピニオンに来た患者には、決して諦めないように、と言い聞かせ、ベストな治療を紹介している。

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