潜因性脳梗塞例に心臓モニタを植え込むと、1年間で12.5%に心房細動(AF)が検出される(通常診療では2%)―。CRYSTAL-AF試験 のこの結果を受け、通常診療では見逃されてきた「隠れAF」が脳梗塞リスクとなっているのではないかと考えられるようになった。興味深いことに、潜因性ではなく血栓性と考えられる脳梗塞(アテローム血管性、ラクナ)でも同様に、心臓モニタ植え込みによる1年間AF検出率は12.1%だった(通常診療なら1.8%)[STROKE-AF試験. 2021]。
では検出された「隠れAF」例に対し、抗凝固療法を開始すべきだろうか? 現時点では明らかな答えはない。しかしこの点に関し示唆に富むデータが、2月8日から米国ダラスで開催された国際脳卒中学会で報告された。上述STROKE-AF試験の延長観察である。少なくともアテローム血管性脳梗塞・ラクナ梗塞既往例では、「隠れAF」は多発するも脳梗塞の主な危険因子ではないようだ。Lee H. Schwamm氏(ハーバード大学、米国)の報告から紹介する。
STROKE-AF試験は血栓性と思われる脳梗塞既往を対象に、発症後10日以内の心臓モニタ植え込み群(242例)で通常診療群(250例)に比べAF検出率がどれほど改善するか、1年間観察したランダム化試験である。対象のCHA2DS2-VAScスコア中央値は「5.0」(脳梗塞予想発症率:6.7%/年)[Camm AJ, et al. 2010]だった。
結果は先述の通り、「心臓モニタ植え込み」群で有意に多くのAFが検出された。検出率曲線の群間差は1年間を通して広がり続けた。
今回の解析対象は、上記結果からさらに2年間追跡できた「心臓モニタ植え込み」群148例と「通常治療」群の146例である(この患者群の背景因子は示されず)。
まずAF検出率曲線の群間差は試験開始から1年経過後も開き続け、最終的にAF検出率は「心臓モニタ植え込み」群で21.7%、「通常治療」群で2.4%となった(ハザード比[HR]:10.0、95%信頼区間[CI]:4.0-25.2)。
植え込みモニタで検出されたAFの88%は無症候性だった一方、67.4%では1時間以上持続するAFが記録されていた。
ではこのような無症候性AF検出例に対して、積極的な脳梗塞予防を施行すべきだろうか。Schwamm氏の見解は、以下の知見から否定的だった。
まず、36カ月観察後も、心臓モニタ植え込み群における脳梗塞発生率は通常治療群と有意差なく、数字としては多かった(17.0 vs. 14.1%、NS。抗凝固療法の要否は主治医が自由に決定)。そして何より、心臓モニタ植え込み群で脳梗塞を発症した34例中、発症前にAFが検知されたのは3例のみだった(経口抗凝固薬開始は3例中1例)。
つまり脳梗塞再発の多くはAF以外の(リスク)因子に起因する―。これが同氏の見立てである。
ただしこれは血栓性脳梗塞既往例で得られた結果であり、潜因性脳梗塞では別の結果になる可能性もある。
なお、植え込みデバイスで検出されたAFに対する抗血栓療法については、アスピリンとDOACを比較するランダム化試験"ARTESiA"が進行中である(終了予定は本年12月[ClinicalTrials. gov])。
STROKE-AF試験はMedtronic Inc.から資金提供受けて実施された。