1981年の厚生白書によると「リハビリテーションとは障害者が一人の人間として、その障害にもかかわらず人間らしく生きることができるようにするための技術……(以下、省略)」と定義されているように、リハビリテーション(以下、リハビリ)は何らかの機能障害を受けた人に対して行うものであるとされてきました。
しかし、高齢者は何らかの障害を持っていなくても、入院しなければならない状態に陥ると、入院中に要介護状態になってしまうことが多いのです。高齢者の場合、夜中でもトイレに行きたくなりますが、例えば40人の入院患者のうち30人が高齢者であると、夜勤の看護師だけでトイレ介助をすることは困難です。そこでこれらの患者さんの転倒・転落などによる事故の発生を防ぐために、身体抑制や膀胱留置バルーンカテーテルを挿入せざるを得ない状況が続いています。その結果、退院しても歩けなくなってしまうのです。私は「急性期医療が要介護者を作っている」と思っています。そしてこの状況を何とか改善しなければならないと思っています。
最近の統計では全入院患者に占める高齢者の割合は80%に近く、入院患者の多くを高齢者が占めていることがわかっています。私が医療の現場に立つようになった50年以上前とは、明らかに入院患者層は変わりました。現在は、疾病発症、老化による筋力低下によってリハビリが必要な状態になってから初めてリハビリが行われていますが、明らかに非効率です。現在のリハビリ提供体制を見直し、リハビリの必要な状態にならないためのリハビリ、すなわち「予防リハビリ」が必要となるのではないでしょうか。「予防リハビリ」は、急性疾患発症、周術期、癌や神経難病、高齢化、社会的要因などにより身体機能低下が想定されるときに、身体機能が低下しないように、また機能が低下しても障害が重度化しないように予防的にリハビリを行うことです。
年齢を重ねても自分の身の回りのことは自分でしたいものです。排泄行為と摂食行為はなおさらです。リハビリは自立歩行が最優先という考え方が当たり前のように思われていますが、無理に歩こうとしなくても歩行器や車イスを用いれば自分の行きたいところへ移動できます。人間は誰でも年を取るし、いろいろな機能が低下するのはある程度仕方がないことですが、自我を持ちながらできるだけ自立した生活を持続するには予防リハビリは必須です。
武久洋三(医療法人平成博愛会博愛記念病院理事長)[高齢者の自立][要介護状態]