漢方薬の出荷制限がかかっており、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)が手に入らなくなっている。コロナ禍で、葛根湯(かっこんとう)など感冒に用いる薬剤の出荷量が増えて出荷制限がかかってきたが、それがほかの漢方薬にも広がってきたのであろうか。
救急医がなぜ漢方薬の心配をしているのかと疑問を持たれるかもしれないが、芍薬甘草湯は救急でもよく利用する薬剤である。筋痙攣を緩和するため、熱中症で救急搬送されて筋痙攣を合併しているときには重宝する。そのほか、実は尿管結石の際にも使える。
芍薬の主成分はペオニフロリン、甘草の主成分はグリチルリチンである。ペオニフロリンは末梢血管拡張作用があり、血流量増加が期待できる。また、ペオニフロリンは神経筋シナプスでCa2+イオンの細胞内流入を抑制し、さらにグリチルリチンはカリウムイオンの細胞外流出を促進、アセチルコリン受容体を抑制して筋弛緩作用を発現させる1)。
尿管結石が嵌頓すると、尿管の平滑筋が痙攣・収縮し、尿の流れが遮断された結果、腎盂内圧が上昇して疼痛が起こると考えられており、芍薬甘草湯はこの筋痙攣を改善することを期待して投与される。実際、症例数は少ないが、尿管結石にはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)よりも芍薬甘草湯のほうが効くかもしれないという報告もある2)。
以前、妊娠後期の妊婦が尿管結石になったが、鎮痛ができないということで紹介されたことがあった。NSAIDsは妊婦には使いにくく、紹介元ではペンタゾシンでも疼痛緩和困難であったが、芍薬甘草湯を使用したところ疼痛を緩和することに成功した。鎮痙という意味ではブチルスコポラミンを使用することも多いかもしれないが、尿路結石症診療ガイドラインでもブチルスコポラミンより芍薬甘草湯の使用を推奨している3)。このありがたい薬剤がまったく手に入らなくなってしまうと、救急外来で悶絶する患者を前に、なすすべなしという状況になりかねないのである。
漢方薬だけでなく、抗菌薬なども現状出荷制限がかかっている。薬価が下がり、自国で原材料から製造までを賄うことが困難になったことも一因であろう。起こってしまったことはどうしようもない。適時使用を心がけ、貴重な薬剤を上手に使っていきたい。
【文献】
1)木村正康:代謝. 1992;29[臨時増刊号]:9-35.
2)井上 雅, 他:日東医誌 Kampo Med. 2011;62:59-362.
3)日本泌尿器科学会, 他, 編:尿路結石症診療ガイドライン. 2013年版. 金原出版, 2013,
薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[芍薬甘草湯]