ポータブル超音波検査装置の進歩は著しく,設置型の高機能機種に近い性能を備えたもの,ポケットサイズのワイヤレスタイプ,スマートフォンと連携した装置も登場している。精度の高い超音波検査を在宅ベッドサイドで行えるようになってから,在宅医療における診断レベルは格段に上昇した。特に,急性腹症,尿閉,心不全,脱水,肺炎等をとらえるには,理学所見や血液検査等のみでの診断と比べて精度とスピードで優れている。ポケットサイズの装置(ポケットエコー)では,聴診器や血圧計のように常時携帯することが可能である。
超音波検査の手技は,高機能で比較的大型の装置と,機能が限定されたポケットエコーとで,使用目的や手技をわけて考えるべきである。設置型または大型ポータブル高機能の装置の手技については教科書にある通りだが,ポケットエコーはスクリーニングには不適である。
在宅患者の超音波検査では,患者の部屋の広さと配置,ベッドの大きさや種類,着衣や寝具の状態,食事のタイミングなどが手技に影響を及ぼす。また,排泄物の処理が必要なこともしばしばある。検査にあたっては,家族に清拭に必要な物品の用意と協力をお願いしておくほうがよい。また,適切な体位をとらせることが困難な場合があり,期待した画像が得られないこともしばしばある。特に心臓超音波検査では,左側臥位で検査できないことを前提にしておいたほうがよい。電源が確保できないこともあるため,ポータブルエコーは十分に充電しておく。
超音波検査では,診断と処置に必要な様々な所見が得られる。主なものを以下に列挙する。
胸腹部:胸腹水,胸膜肥厚,肺炎・肺癌などの肺病変,横隔膜異常,肝胆膵脾腎の病変,腹腔内や後腹膜の大きな腫瘍,残尿,膀胱腫瘍,前立腺異常,子宮付属器の異常,胸腹部血管の異常など。
循環器:心不全(肺水腫),弁膜症,心筋梗塞,不整脈,動脈硬化,血流の異常など。
体表その他:乳癌や皮膚癌などの体表の腫瘍性病変,蜂窩織炎やリンパ浮腫などの皮下の異常,褥瘡の状態,体表近くの血管と血流の状態,皮下や筋肉の肉腫など腫瘍性病変,筋肉と腱の異常,骨折と捻挫,その他筋骨格系の病変,嚥下機能や発声機能など。
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