先日、猟銃を発砲するなどして4人を殺害した事件が発生しました。猟銃は銃⼑法に基づいて都道府県公安委員会より所持許可を受ける必要があります。申請時に経歴書、同居親族書などとともに、医師の診断書を提出する必要があります。また、3年ごとの更新手続きも必要です。
この診断書は①かかりつけ医、②精神保健指定医、③精神科、心療内科、神経内科等を標榜し2年以上精神障害の診断または治療に従事した経験を有する医師、のいずれかが記載します。そして、統合失調症、そううつ病、てんかん、この他、自己の行為の是非を判別し、またはその判別に従って行動する能力を失わせ、または著しく低下させる症状を呈する病気であるか、介護保険法に規定する認知症か、アルコール中毒、麻薬中毒、大麻中毒、あへん中毒、覚せい剤中毒か、を診断します。猟銃の所持を許可する上では大変重要な事項であり、診断書の重みを感じます。
当然のことながら、その患者さんの心身の状態について十分把握している必要がありますので、初診時に記載することはほぼ不可能です。ある職種や危険物を所持する人において、心身の状態を証明することも医師の役割です。
毎年、約1000人が理容師、約1万7000人が美容師国家試験に合格します。理容師・美容師は日常的にハサミやカミソリを用いるので、精神機能の障害によって業務に必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができない者には免許を与えないことがあります(理容師法/美容師法施行規則)。
そこで、理容師や美容師として登録する際に、医師の診断書が必要になります。医師は、精神機能の障害がないか、ある場合には病名と症状、そして現に受けている治療等により理容師または美容師の業務を適正に行うことができるか、を判断しなければなりません。
また、理容師/美容師が開業する際には、結核、皮膚疾患、その他の伝染性疾病に罹患していない旨の診断書を提出しなければなりません。したがって、医師はこれらの疾患の有無について診断書に明記しなければなりません。これは、公衆衛生の観点から求められていることです。
われわれ医師も医籍登録する際に診断書の提出が義務づけられています。診断書では目が見えない、耳が聞こえない、口がきけないに該当するか、精神機能障害、麻薬・大麻・あへん中毒に該当するかが診断され、該当するものがあれば、症状の安定性、具体的な治療内容、補助的または代替的手段があればその具体的内容を記載することになっています。
医師こそ、様々な器具や薬剤を用いて患者さんを治療しますので、上記の内容については慎重に審査されなければなりません。
以上のように、多くの人が危険物を所持したり使用する上で、医師の診断書を必要としている現状がわかります。
精神障害がある人が、猟銃などによって犯罪を起こすことがあっては困りますので、医師の作成した診断書は様々な審査において十分に吟味されます。日々発行する診断書の重みを改めて感じます。