麻しんは,麻しんウイルスによる感染症です。約10~12日間(最大21日間)の潜伏期間を経て38℃程度の発熱や咳,鼻汁といった風邪のような症状が2~4日続き,その後39℃以上の高熱とともに発疹が出現すると言われています。頰粘膜にコプリック斑と呼ばれる白いザラザラとした砂粒大の斑点がみられることがあります。このように,初期症状が感冒と酷似しているため,初期の時点で鑑別を行うことが難しい感染症です。
また,ワクチン接種や過去の感染による部分的な免疫を持つ人が麻しんウイルスに感染すると「修飾麻しん」と呼ばれる病型になることがあります。「修飾麻しん」は,全体的に症状が軽く,潜伏期間が長めになるのが特徴ですが,基本的には普通の麻しんとよく似た症状になります。特異的な治療法はなく,対症療法になります。
麻しんの特徴のひとつが,感染力の強さです。麻しんは,空気感染,飛沫感染,接触感染で感染拡大します。もしも免疫を持たない人が麻しん患者に接すると,9割の人が麻しんを発症すると言われています。麻しんの基本再生産数(1人から何人が感染するかという数字)は,12〜18と言われており,最も感染力の強い感染症のひとつです。感染症法上の五類感染症に該当し,全数把握疾患(診断を行った医師は保健所に届け出を実施する)です1)。
日本は,2015年から現在に至るまで「麻しん排除状態(日本国内に土着しているウイルスによる流行が起こっていない)」にあると認定されています。一方で,海外から麻しんの持ち込み例は散発しています。海外で感染した持ち込み例から,日本国内で感染拡大させないことが非常に重要です。
2023年4月27日に,インド渡航歴のある30代男性(麻しんワクチン1回のみ)の麻しん感染が茨城県から報告されました2)。感染性のある期間に患者が利用した公共交通機関と区間なども公開され,感染対策の呼びかけがなされています。さらに,この男性と同じ新幹線に乗り合わせていた東京都の30代の女性と40代の男性が5月10日と5月11日に麻しんと診断されました3)。2023年6月15日時点で,本事例に関して3例の麻しん患者が報告されています。また,本事例に直接関係していない麻しん患者の報告も続いています。
麻しんは,生涯で1度の感染歴があるか,2回麻しんワクチンを接種することで基本的に予防が可能です。
感染歴は抗体検査により抗体価を調べることで評価が可能です。ワクチン接種歴は母子手帳を確認することが一番確実です。母子手帳にはときどき「〇歳のときに麻しんに罹りました」と書かれていたり,患者が「家族から〇歳のときに麻しんに罹ったと言われた」と言うことがあるかもしれません。しかし,「罹った」という記録や記憶は不確かなことがあり,風しんといった他の感染症と間違えている可能性もあります。
ワクチン接種歴が不明な場合は,抗体検査で抗体価を調べることも可能です。麻しんのワクチン接種歴や抗体価を調べて,必要に応じてワクチン接種を行い,麻しんの流行に備えましょう!
【参考文献】