1 失神とは何か
失神とは全脳の一過性低灌流(病態)による一過性意識消失発作(症候)を起こす疾患群である。
全脳の低灌流によらない一過性意識消失である,てんかん,代謝性疾患,中毒,一過性脳虚血発作,脳震盪,転換性障害など,中には見逃してはならない重要な疾患がある。
失神はその機序により心原性失神,反射性失神,起立性低血圧による失神に分類され,この分類にしたがって病型を診断することで,個々の症例について病態の理解が進み,また治療方針決定に役立つ。
2 失神の危険性
失神は救急来院例の1~2%を占めるありふれた疾患群だが,心原性失神の死亡ハザード比は,失神未経験者の2倍と高率である。
若年者では反射性失神が多く,高齢者では心原性失神,起立性低血圧による失神の頻度が高くなる。失神の再発率は2~3割である。背景にある疾患による死亡リスクや,その後の事故やADL低下のリスク回避にも注意が必要である。
3 失神の診断と鑑別疾患
死亡リスクの高い心原性失神を見逃さないために,初診時にリスクの階層化を行う。
失神診断の流れの中で,鑑別診断を行っていくが,必要に応じて早期に専門医へのコンサルトが必要となる。一般内科医,総合診療医,救急医などが失神の初期診療にあたることが多いと思われるが,診断によっては循環器内科医,脳神経内科医による専門的検査,治療が必要となる。
失神の背景にある重大な疾患,鑑別疾患としてのてんかんや脳血管障害を見逃さないために,ブレインハートチームの連携が有効な可能性がある。
診断困難な失神に対しては,植込み型心電計留置の適応を考える。
4 失神の治療
高リスク群に対しては即日入院させ,循環器内科への連絡,早期評価・治療介入が必要である。高リスク所見がなくとも,頻回な失神は早期の診断が重要であり,入院を考慮する。
病態説明,生活指導,前駆症状時の失神回避法の指導,自動車運転についての指導を行う。
病態ごとに,原疾患の治療,可能な範囲で誘因の除去を行う。
伝えたいこと…
初診時に心原性失神を見逃してしまわないように,特に注意が必要。高リスク因子のある患者は即日入院が原則と考える。