バセドウ病や橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患に罹患している人は世界人口の約5%と,自己免疫性疾患の中で最も多い。また,わが国では,バセドウ病は200〜400人に1人が罹患し,橋本病は成人女性の約10人に1人に認められることから,まさに甲状腺疾患は“common disease”である。
しかし,実地臨床では教科書に出てくるような典型的な症例は少なく,患者さんの訴え,症状および所見は多岐にわたる。したがって,甲状腺とはおよそ無関係と思われる診療科に,甲状腺疾患の患者さんが受診することは多々ある。
本書は,そのような甲状腺疾患の患者さんを「見つける,見逃さない」ことを第一に考えて作られた。すなわち,患者さんが「私は甲状腺の病気です」という看板を示すことはなく,医師がその可能性を念頭に置かなければ,決して的確な診断には至らない。
甲状腺疾患の診断に関する書籍は数多あるが,ほとんどはバセドウ病,橋本病などの疾患別に書かれている。その点,本書は内科をはじめ様々な診療科で,あたかもその診療科に特異的と思われる疾患の中に存在しうる甲状腺疾患について記載されており,まさに甲状腺疾患診断における“横糸を紡いだ”格好になっている。
本書では内科はもとより,他の診療科においても,どのような甲状腺疾患の患者さんが紛れ込む可能性があるのか,また,その際にどのように対処すればよいかが具体的かつコンパクトにまとまっている。さらに,実際の症例が豊富に収められており,診療をイメージしやすい。
本書は,今までに例をみない甲状腺疾患の診断書である。実地臨床に携わるすべての医家諸兄諸姉にぜひ手に取って頂きたく,万全の自信をもってお勧めする。