【概要】医療・介護制度の関係法律を一括改正する「医療・介護総合確保推進法案」が15日、野党の反対を押し切って衆院本会議で可決され、今国会で成立する見通しとなった。
14日の厚生労働委員会では、法案を提出した政府の参考人として安倍晋三首相が招致され、委員から質疑を受けた。
●医療事故調─「GL通じて周知図る」
その中では、阿部俊子議員(自民)が医療事故調査制度について質問。医療事故の定義や調査報告書が訴訟に利用される可能性に関して「現場は不安を抱えている」と指摘し、制度の目的を確認した。
医療事故調査制度は、医療機関の管理者が予期しなかった医療事故(医療の提供に起因する死亡または死産)が発生した場合、院内調査会を設置し、調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析するもの。報告書の訴訟利用については、田村憲久厚労相が9日の委員会質疑で「可能性は排除できない」との見解を示している。
安倍首相は、「制度創設の目的は責任追及や紛争解決ではなく、あくまで再発防止」と強調。さらに、「医療事故の定義、範囲を明確にする必要がある」として、法案成立後に厚労省が策定するガイドライン(GL)と研修を通じて、医療機関への周知を図る考えを示した。
●特定行為の研修─「在宅医療で役割拡大」
質疑ではまた、医師が症状の範囲を特定し処置内容を指示する「手順書」に基づき高度な医行為(特定行為)を行う看護師の研修について、高橋千鶴子議員(共産)が制度創設の意義を質した。安倍首相は、「在宅医療等の場でより活躍が可能になる」と述べ、特に在宅医療での看護師の役割拡大に期待を示した。
清水鴻一郎議員(維新)は、厚労省のチーム医療推進会議がまとめた41種類の特定行為の候補に気管挿管が含まれていることを問題視。「医師でも手術室のように安全性が確保された状況でしかやらない行為に看護師を従事させるのは危険」と指摘した。
これに対し安倍首相は「医療の安全の確保にしっかり努めていきたい」と述べるにとどめ、特定行為や研修の内容については、法案成立後に厚労省が策定するGLで規定するとした。
●審議時間の短さに反発
安倍首相への質疑終了後、委員会では法案の採決が行われた。医療法、介護保険法など19本の法律を一括改正する法案の大きさに比べて、委員会での法案審議が計約28時間にとどまったことから、すべての野党が「審議不十分」と訴えたが、法案は自公両党の賛成多数で可決。
15日の衆院本会議でも、野党は反対討論を展開したが、与党の賛成多数で可決され、同日、参院に送付された。
【記者の眼】医療事故調と特定行為に係る研修の2制度は、しばしば個別審議も求められてきたが、法案審議の焦点が分散する中で議論がなかなか深まらずにきた。首相が見解を示した意義は大きい。法案は6月上旬にも成立の見込みだ。(F)