在宅医療における口腔ケアは,単なる口腔清拭行為や清潔保持行為にとどまらず,歯周病治療や齲蝕歯処置,義歯関連処置などの歯科的治療,摂食嚥下リハビリテーション,食事介助までも含む歯科医師・歯科衛生士による専門的口腔ケアを意味する。口腔ケアを行うことにより口腔内を清潔に保つことで,誤嚥性肺炎を予防し,歯周病の重症化も予防することが期待できる。また,摂食嚥下リハビリテーションを行うことで口腔機能の維持・向上が図られ,機能に合わせた経口での食事摂取が可能となり,栄養改善が期待できる。口腔ケアは最期まで口から食べることを支え,患者のQOL向上につながる。
在宅医療が中心であっても,通院が可能である時期での口腔ケアでは病態の変化を予測して,保存不可能あるいは急性増悪が見込まれる歯牙については積極的に抜歯を行う。義歯も新規作製を行う,歯周病治療・齲蝕歯処置を行うなど,口腔環境を積極的に改善することが望まれる。また,口腔機能維持向上のために口腔周囲筋トレーニングや舌体操といった間接訓練を導入すべきである。
通院が不可能で在宅医療のみの場合では,積極的な歯科治療は避け,現状維持をめざす方針となる。具体的には,口腔環境を清潔に保つために歯科衛生士による頻回な専門的口腔ケアを導入する,義歯は新規作製ではなく修理や床裏装などにとどめる,軟菜食やトロミをつけるなど口腔機能に見合った食事形態を提供する,などの対応が挙げられる。この時期の抜歯などの口腔外科的処置が必要になった場合は,患者の状態急変などの不測の事態に備えて,高次医療機関へ搬送して全身管理下での処置が必要となる。
看取りも見据えた終末期においては,口腔乾燥やカンジダ症などに対応するために,保湿やブラッシング等の口腔ケアが必須となる。口腔内乾燥が顕著な場合は,義歯を装着することを控えるように指導する。胃瘻などにより経口摂取が困難な場合でも,誤嚥に十分注意しながら,楽しみ程度の経口摂取ができるように支援する。口腔の不快症状を軽減することは,終末期においてのQOL向上に貢献する。
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