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ペルーにおける国内史上最大のデング熱の流行 [感染症今昔物語ー話題の感染症ピックアップー(13)]

No.5179 (2023年07月29日発行) P.17

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

登録日: 2023-07-26

最終更新日: 2023-07-26

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●デング熱とは

デング熱は,ネッタイシマカなどの蚊によって媒介されるデングウイルスによる感染症です(蚊媒介感染症)。デングウイルスはフラビウイルス科に属し,4種の血清型が存在します。デングウイルス感染症がみられるのは,媒介する蚊の存在する熱帯・亜熱帯地域,特に東南アジア,南アジア,中南米,カリブ海諸国ですが,アフリカ・オーストラリア・中国・台湾においても発生しています。全世界では年間約1億人がデング熱を発症し,約25万人がデング出血熱を発症すると推定されています。

症状は,急激な発熱で発症し,発疹,頭痛,骨関節痛,嘔気・嘔吐などがみられます。通常,発症後2〜7日で解熱し,発疹は解熱時期に出現します。多くの場合は,比較的軽症のデング熱ですが,デング熱患者の一部は,稀に重症化してデング出血熱やデングショック症候群を発症することがあり,早期に適切な治療が行われなければ死に至ることがあります。

デング熱を診断する方法は主に,①PCR法によるデングウイルスの検出,②非構造蛋白(NS1)抗原の検出,③IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または有意な上昇)の3つです。このうちPCR法は地方衛生研究所や国立感染症研究所での行政検査として行われます。

デング熱に特異的な治療薬はありません。治療は対症療法が中心となり,重症度によっては集中治療を要します。NSAIDsはデング熱による出血症状を助長させる可能性があるため,解熱剤にはアセトアミノフェンを用います。感染症法上の四類感染症に該当し,全数把握疾患(診断を行った医師は保健所に届け出を実施)です1)

●ペルーにおける国内史上最大のデング熱の流行

ペルーは2023年1月以降,国内史上最大のデング熱の大流行の真っ只中にあります。

2023年7月8日までに全国で19万7461例の感染者と339例の死亡者が報告されています(致死率:0.17%)2)

最大の被害地域はペルー北部で,トゥンベス, ピウラ,ランバイェケ,カハマルカ,イカ,ロレトの各地域が含まれています。リマ市では,2023年6月14日時点で5260人の感染者が報告されており,前年同期比560%増,2017年(ペルーで過去最も深刻だった年)の14倍となっています。

デングウイルスの血清型はDENV-1とDENV-2が全国的に流行しており,一部の地域ではDENV-1とDENV-2に加えてDENV-3も確認されています。

デング熱の感染拡大の主な原因は「エルニーニョ」と呼ばれる気象現象と考えられております。「エルニーニョ」は太平洋の熱帯低気圧を煽る世界の海洋と気象の周期的な温暖化です。湿潤な環境は蚊の活動に好都合であるため,これが感染者増加の主な要因となっています。

●デング熱の対策は防蚊対策!

デング熱は,2014年に日本国内でも150人以上の感染拡大がありました。現在,デング熱に対する使用可能な予防薬やワクチンはありません。対策は防蚊対策になります。屋外の蚊が多くいる場所で活動する場合は,できるだけ肌を露出せず,虫よけ剤を使用するなど,蚊に刺されないよう注意することが大切です。

【文献】

1)国立感染症研究所:デング熱とは. 

   https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/238-dengue-info.html(2023年6月22日アクセス).

2)WHO/PAHO:デング熱.(2023年7月17日アクセス)

石金正裕 (国立国際医療研究センター病院国際感染症センター/ AMR臨床リファレンスセンター/WHO協力センター)

2007年佐賀大学医学部卒。感染症内科専門医・指導医・評議員。沖縄県立北部病院,聖路加国際病院,国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)などを経て,2016年より現職。医師・医学博士。著書に「まだ変えられる! くすりがきかない未来:知っておきたい薬剤耐性(AMR)のはなし」(南山堂)など。

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