先日、第78回日本消化器外科学会総会が函館で開催された。久しぶりに制限なく現地に行くことができる総会となり、ハイブリッド開催であったが、現地を訪れた会員は多かった。この地で、前理事長の発案により、当学会の今後の男女共同参画へ向けての宣言とも言える「函館宣言」を発出した。「函館宣言」は以下の4つの宣言文からなる。
(1)消化器外科医としての男女の均等な活躍を支援します。
(2)男女の均等な活躍を達成するために、大規模データベースを用い、定期的に男女の消化器外科医の手術執刀数を検証します。
(3)2032年までに消化器外科中難度手術執刀数の男女差をなくし、引き続き高難度手術執刀においても機会均等をめざします。
(4)消化器外科における多様な視点が生み出す未来を信じ、真のダイバーシティの実現に向けて会員の意識変革に努めます。会員一人ひとりが、ライフイベントに合わせて希望するキャリアを達成できるよう支援します。
この「函館宣言」を発出することとなった理由は、昨年8月に本欄にも記載した(No.5131)が、日本消化器外科学会のNational Clinical Database(NCD)(95%以上の日本の外科手術が登録されているデータベース)を用いた研究として、JAMA Surgeryに発表させて頂いた報告1)に基づく。あらゆる経験年齢層において、女性外科医の執刀数は男性外科医よりも少なく、しかも、この差は、術式の難易度が上がるに従って顕著であった、という内容である。このようなデータに基づき、男女の活躍に差がなくなるよう、今までの差別を反省しつつ、これからの方針に関して宣言を出す、という学会の活動は非常に画期的なことであると思う。
その反面、このことに関し、外資系の会社にお勤めで社内において男女共同参画の活動をされている女性社員に語ったところ、「このような差別をなくすことはあまりにも当たり前のことで、いまだにこのようなことを言わなくてはならない現状こそ信じがたいものである」とのご意見を頂いた。私ももっともなご意見であると思う。
このような差別は人権侵害であり、何にも増して改善されるべき重大事項である。人権侵害に対し、「現場が優先」というような理由は成り立ち得ない。日本人全体がさらに人権に関してはより敏感になって頂きたいものである。
【文献】
1)Kono E, et al:JAMA Surg. 2022;157(9):e222938, doi:10.1001/jamasurg.2022.2938
野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[ダイバーシティ][差別の解消]