巻頭言
私自身が日常診療で感じていることなのだが,腹痛で何が一番難しいかというと,やはり診断にほかならない。
救急病院の外科医であるため,急性腹症(腹痛)を診察する機会は比較的多いのだが,「どう診断していいのかわからない腹痛」や「初診での判断が結果的に誤診であった腹痛」はいつまでたってもなくならない。「どうしたらミスなく診断できるのだろう?」「何に着目すれば見落としが少なくなるのだろう?」と思い悩む日々が続いている。患者さんの高齢者比率はますます上昇し,非典型的な症状や所見に惑わされることも少なくない。
そんな中でも,長く診療を続けているとなんらかの気づきがあり,「ここに注目すれば大きな間違いが起きにくいのではないか」「何を,より重要視すればよいか」がおぼろげながら形になりつつある。「指南」というレベルには到底達していないが,「ちょっとしたコツ」や「tips」くらいの価値はあるのではないかと考えている。とはいえ,その多くが“経験に基づく私見”レベルで,こういう文献にこう書いてあるので,と大っぴらに言えるようなシロモノではない。
この度,実地医家を読者対象とするjmedmookで腹痛診療について書く機会を頂いた。そこで,実地医家の皆様の腹痛診察において「ちょっとしたコツ」や「tips」が少しでもお役に立つのであればと思い,まとめてみることにした。無論,エキスパートの方からみて違った視点,より効率的な考え方もあるであろうことを承知の上で記載している。
本書では,初診での見落としを極力減らすための簡単なキーワードを抽出することをコンセプトとして,「手術や治療が早急に必要な疾患をピックアップすること」を最大の目標としている。そのため,初診時に想起する疾患を限定し,分類を簡略にすることを心がけた。
膨大な腹痛疾患のすべてを網羅しようと考えると,かえってまとまりがつかなくなってしまう。たとえが悪いかもしれないが,はじめから難しいとわかっている試験で100点を取るために出題頻度に関係なく全範囲を網羅して勉強した結果30点を取るよりは,重要度が高く出題頻度も高い分野に絞って勉強して60点を取るほうがよいのでは,という考え方に基づいている。
本書を紐解かれた方に,「こういう風に腹痛診察をしている人もいるんだな」という感想を持って頂けたなら私としては十分であるが,「それならば自分はこんな風に診て行こうか」というきっかけとなったり,日常診療で何か1つでも役立つことがあれば幸いである。
下記の箇所に誤りがございました。謹んでお詫びし訂正いたします。