厚生労働省の人口動態統計によると、2022年の日本人出生数は過去最少の約77万人と初めて80万人を割り、合計特殊出生率は1.26で過去最低に並んだ。
少子化は今やわが国の最重要懸案の1つとなっているが、これには女性の出産、子育てと、働く上での様々な課題が未解決のまま置かれてきたという背景がある。OECDによる国際比較データでは、女性の経済参画が進んで男女差が小さい先進国ほど出生率は高い傾向にあるという。国連児童基金の21年政策評価では、日本の「育休制度充実度」は先進国中1位というが、これには父親に認める育休期間の長さが貢献しているのだそうだ。しかし、現実にはわが国の男性の育休取得率は14%と低迷しており、5割超が取得するという欧州各国よりはるかに低い数字だ。当病院機構の22年度育休取得率は、年度中に出産した女性職員では94%だったが、男性職員では31%だった。
一方、当地域の地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネットの新規事業の1つに、25年度をめどに不妊治療専門の参加法人と協働で立ち上げる日本海総合病院への事業一体化がある。晩婚化で不妊治療を受ける人は増えているが、厚生労働省の出生動向基本調査(21年)では、調査対象夫婦(妻が55歳未満)のうち23%が不妊治療や検査を受けており、日本産科婦人科学会の資料によると、20年に生まれた子どもの7%は体外受精などの生殖補助医療を受けて生まれている。
不妊治療は高齢出産に選択肢として提供可能なことで少子化対策の1つとしても有益だが、育児支援、多様な働き方、賃金体系などとセットで提供することと、わが国の男女格差の是正が進まない象徴として「ジェンダーギャップ指数2023」が過去最低の125位であったことなど、根本の要因改革が強く求められる。
過日、全国自治体病院協議会の管理者研修会の折に、産後ケア施設開業セミナーの案内をさせて頂いた。産後ケア施設とは、妊娠・出産の負担を抱えるお母さんの産後の心身回復と、育児不安を和らげるためのサポート施設を言う。核家族化で育児支援を受けられる機会が減り、母親が孤立し「産後うつ」状態となってしまうことも少なくない。予防には育児支援の充実、母親の休養が重要だ。「産後ケア」のための宿泊施設も首都圏では増えているという。
里帰り、自力以外の専門家が支える第3の選択肢、産後ケアの形だ。ただ、今のところ料金が高く、働きながら子育てをせざるを得ないお母さんたちには敷居が高いのが現実で、地方の連携推進法人の新しい事業に取り込めないか、考えているところである。
栗谷義樹(地域医療連携推進法人日本海ヘルスケアネット代表理事)[出生数][生殖補助医療][育児支援]