2023年7月発売の 『解剖から理解する頚椎診療』(編著:遠藤健司・三原久範) について、頚椎診療のトップランナーに読んでいただき、それぞれの視点から感想と、「私の頚椎診療」という題材で、書評という形でまとめていただきました。
頚椎の数「7」にちなんだ、7名のスペシャリストによる「書評リレーマラソン」と題したこの連載を通じて、トップランナーが大切にする頚椎診療への想いを感じ取っていただけると幸いです。
「解剖から理解する頚椎診療」書評リレーマラソン 第4頚椎(走者)
鐙 邦芳(札幌整形外科理事長)
①本書を読んで
本書を通読して第一に感じた類書との違いは少数の執筆者によって執筆されたことによる統一感でした。本書では執筆者が多い場合にありがちな非統一性や重複が極力排除され,統一感のある構成になっており,編者らの企画力が反映されていると思います。教科書的記載の域にとどまらず,執筆者らの実際の診断・手術経験に基づく記載には,なるほどと思わされる部分が随所にあり,大変参考になります。
上位頚髄に存在する三叉神経脊髄路核と三叉神経領域の知覚異常の関係の記載などはこれまでの類書にはなく,新鮮味を感じました。近年の頚椎instrumentation手術の進歩により,頚椎変形や首下がり症候群の矯正手術が積極的に行われるようになりましたが,それを反映した頚椎アライメント項目の充実も本書の特徴と思います。初心者のみならず,ベテランの知識整理にも至極適した書籍と思います。
②私の頚椎診療
頚椎を含めた脊椎手術に伴うリスクは,画像診断やsupport toolなどの進歩によりかなり軽減できるようになりました。しかしリスクを完全に排除することはできません。リスク回避には,確実な診断をしたうえで,手術が患者にもたらす益/不利益を十分に考慮した手術適応の決定が重要です。
また,患者の利益を最大限にするためには,医療機器メーカーの尻馬に乗った不要なinstrumentation手術や無駄な固定範囲延長どは極力回避されるべきです。後方・前方いずれの手術方法も進歩した現在,大多数の症例は単一アプローチで解決でき,前後合併手術の適応は限定されるべきです。欧米で新しい脊椎治療が広まると,飛びついて猿真似をするという愚挙が日本で行われてきました。それを始めた医師は巨額の経済的恩恵を受けてきましたが,合併症が多発してその有用性が批判されるやいなやさっさとその方法を放り出し,尻馬に乗って屋根に上った追従者は梯子を外される,という醜態が繰り返されてきました。
今,頚椎のinstrumentation手術には隆盛の感がありますが,医師個人や病院の収益のために悪魔に魂を売り,医療の本質から逸脱しないよう心がけたいものです。
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>>「解剖から理解する頚椎診療」
「解剖から理解する頚椎診療」書評リレーマラソン
⇐第3頚椎(走者)千葉一裕(防衛医科大学校整形外科学講座教授)
⇒第5頚椎(走者)清水 敬親(榛名荘病院 群馬脊椎脊髄病センター 名誉センター長)