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多発性単ニューロパチー[私の治療]

No.5183 (2023年08月26日発行) P.45

神田 隆 (脳神経筋センターよしみず病院院長)

登録日: 2023-08-26

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  • 個々の末梢神経幹がランダムに侵される疾患で,筋力低下や感覚障害は障害された神経の支配領域(たとえば右尺骨神経,左腓骨神経など)に強調される。左右対称性,遠位部優位の障害パターンをとる多発ニューロパチーとは基本的に異なる症候を呈するが,臨床的にどちらであるか判別が困難な症例にもしばしば遭遇する。原疾患として最も高頻度にみられるのは血管炎症候群で,特に小血管が侵されるANCA関連血管炎〔顕微鏡的多発血管炎(MPA),好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA),多発血管炎性肉芽腫症(GPA)〕が多い。血管炎以外にも,全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとする各種膠原病のほか,サルコイドーシスや悪性リンパ腫,多巣性の慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)など,様々な炎症性・腫瘍性疾患が原因になることがあり,治療方針の決定には原疾患の確実な診断が何より重要である。以下,最も患者数の多い血管炎を基礎疾患に持つ症例について述べる。

    ▶診断のポイント

    運動障害(筋力低下,筋萎縮),感覚障害(感覚低下,異常感覚,錯感覚)が左右非対称にみられ,主要神経幹ごとに障害の強さが異なることを神経診察で明らかにすることに尽きる。罹患神経に沿った強い痛みを訴えることが多い。神経伝導検査では基本的に軸索障害のパターンがみられ,神経ごとに障害の強さが異なるのが特徴である。針筋電図でも神経原性変化の分布や強弱が支配神経ごとに異なるという所見が認められる。急性増悪期にはCRP上昇,赤沈亢進などの炎症所見がみられ,MPO-ANCA,PR3-ANCAなどの自己抗体が高頻度に陽性となる。EGPAによる多発性単ニューロパチーでは,多くの例で好酸球増多や高IgE血症が観察される。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    血管炎を背景疾患とする多発性単ニューロパチーの本態は,末梢神経を栄養する血管(vasa nervorum)の閉塞による虚血性の軸索変性である。いったん起きた軸索変性は容易には回復せず,患者に終生残る障害を背負わせることになるため,急性期・亜急性期には正確な診断に基づく可及的速やかな治療開始が最大のポイントとなる。また,長期にわたって免疫抑制薬による加療継続が必要な患者が多いため,原疾患の確実な診断は不可欠である。副腎皮質ステロイド投与の開始によって,原因疾患の同定に必要な形態学的所見(血管炎やサルコイド結節,異型リンパ球など)の検出が困難となるため,可能な限り治療開始前に病理学的な確定診断を行う。

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