成人の脱臼は,肩関節についで肘関節に多い。単純な後方脱臼は,整復後の機能予後は良好であるが,骨折や靱帯損傷などの合併損傷により不安定性をきたすと問題となる。
受傷機転により,単純な脱臼のほかに,靱帯損傷,骨折,神経障害などの合併症がしばしば認められ,これらを正確に評価することが重要である。
受傷形態,患部の腫脹,不安定性などの臨床所見から損傷部位とその重症度を想定し,X線,CT,MRI等の画像所見でそれらを評価して診断と治療方針を決定する。
肘関節は,腕尺関節という比較的安定した蝶番関節に前腕の回内外運動の起点となる腕橈関節が近位橈尺関節を介して並列して成立している,三次元的に複雑な動きを担う関節であり,10°程度の外反角(carrying angle:CA)を有する。
人間が転倒して手を突いた場合,多くは手掌を下に向けて上体を支えようとし,肘関節は荷重とともに伸展を強制されることが多い。単純に過伸展ストレスがかかった場合,肘関節は内外両側の靱帯損傷を伴わない単純な後方脱臼(simple posterior dislocation)となる。しかし多くの場合,肘関節には荷重による圧迫・伸展と同時に外反や回旋のトルクがかかり,結果として腕尺関節尺側には伸展・牽引ストレスが,腕橈関節面には圧迫力と回旋ストレスがかかる。前者が優位だと,肘関節はCAの頂点である内側側副靱帯(medial collateral ligament:MCL)が断裂して外反損傷型の側方脱臼を,後者が優位だと,MCLを支点に前腕が回外方向,つまり後外側に回旋して後外側回旋不安定症(postero-lateral rotatory instability:PLRI)を呈しつつ脱臼する。治療法は,受傷機転,損傷部位と,その程度に応じて選択する。
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