特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)とは,明らかな原因が特定できない顔面神経麻痺である。末梢性顔面神経麻痺の原因の中で最も頻度が高く,発生率は人口10万人当たり年20~30人とされる。その多くは単純疱疹ウイルスの感染による神経炎が原因と考えられている。顔面神経は側頭骨内で細い骨管を走行しているため,神経浮腫により絞扼をきたし,最終的に虚血,神経変性へと至る。早期に治療を行えた場合は90%前後の高い治癒率が得られるが,高度障害例では高率に後遺症を生じる。
まずは視診にて顔面筋の動きを評価し,顔面神経麻痺の診断を行う。
続いてラムゼイ・ハント症候群や耳下腺腫瘍,側頭骨内および小脳橋角部の腫瘍を除外するため,耳痛,耳介や口腔粘膜の帯状疱疹,難聴,めまい,嚥下・構音障害などの有無を確認する。検査としては,ウイルス抗体価検査〔特に抗水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)抗体価〕や聴力検査,眼振所見の確認が必須であり,MRIにて腫瘍性疾患を検索することが望ましい。
重症度の決定には,顔面神経麻痺スコア(柳原法)によるスコアリングに加え,誘発筋電図検査(ENoG)の評価が有用である。
治療の上で問題となるのは,帯状疱疹や第Ⅷ脳神経症状が顔面神経麻痺に遅れて発現する例や,帯状疱疹を欠く不全型ラムゼイ・ハント症候群で,時に初診時にベル麻痺と診断される。さらに経過中,上述の症状が発現しないzoster sine herpete(ZSH)も存在する。VZVによる顔面神経麻痺は,ベル麻痺に比べ重症例が多いため,ペア血清にて抗VZV抗体価の上昇を確認することが推奨されている。しかし,治療開始時点で不全型ラムゼイ・ハント症候群やZSHを完全に否定することは不可能で,日常診療でベル麻痺と診断されている例の25%がZSHであることが血清抗体価検査で明らかになっている。
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