呼吸器症状は,症状の緩和と同時にその原因を考えながらアプローチする必要がある。なぜなら,原因の根本的治療が症状緩和にもつながり,漫然とした対症療法を防ぐことにもなるからである。また,呼吸器疾患以外の原因にも留意していくことが重要である。
在宅の現場を想定すると,高齢者の呼吸器症状では,「単なるかぜなのか,肺炎なのか?」「新型コロナウイルス感染症やインフルエンザの可能性はないのか?」「呼吸器疾患によるものなのか,心不全等の症状なのか?」「肺癌や他の悪性腫瘍が関与している可能性はないのか?」「見落としがちな薬剤性咳嗽,肺結核,百日咳等の可能性はないのか?」などの鑑別が必要になることが多い。
まずは急性(3週間未満)の症状なのか,遷延性(3〜8週間未満)や慢性(8週間以上)の症状なのかが重要になる。次に喀痰を伴うような湿性の咳嗽なのか,伴わない乾性の咳嗽なのかを尋ねる。また,既往歴,家族歴,喫煙歴・アレルギー歴,服薬状況,ワクチン接種歴,誤嚥のエピソードの有無等は問診で押さえておきたい。たとえば,胃食道逆流症(GERD)の既往や内服は,慢性咳嗽の際には留意しておく必要がある。
聴診では,胸部はもちろん背部の所見が,誤嚥性肺炎の診断に重要になる。
また,下肢の浮腫や体重の変化も心不全の診断に有用である。
呼吸器症状の中でも呼吸困難は,しばしば不安に起因する場合がある。患者の訴えを傾聴し,否定せず,時には症状の日内変動や出やすい環境,体位や労作との関連などを尋ね,環境の改善を図ることも必要になる。
喀痰の吸引や呼吸困難への対処は,同居の家族のみでは困難な場合も多いため,介護保険を用いて必要な訪問サービスを確保しつつ,症状に応じた適切な薬物療法や訪問診療を通じた入院精査・加療の必要性の判断を臨機応変に行う必要がある。
緊急時は,急性呼吸不全の有無と救急搬送の要否を迅速に判断しなくてはならない。電話で急な呼吸困難の相談を受けた場合には,意識の状態,わかる範囲のバイタルサイン,症状出現の状況を確認し,冷静に次の行動を指示する。末期の悪性腫瘍や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性呼吸器疾患等の場合には,できる限り事前に想定される状態の変化や急変時の対応について説明しておき,在宅でどこまで対処可能かについても,ある程度共有しておくことが望ましい。
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