【概要】医療保険部会は紹介状なしの大病院受診で患者に定額負担を求める方針を固めた。積み残しとなっていた出産育児一時金については総額42万円を維持することを決めた。
社会保障審議会医療保険部会(遠藤久夫部会長)は7日に会合を開き、紹介状なしで大病院を受診した場合の患者負担や所得の高い国民健康保険組合への国庫補助のあり方など療養範囲の適正化を巡り、議論を行った。部会では、厚労省が紹介状なしの大病院受診における患者負担のあり方として3案を提示。定額負担を導入する方針は概ね支持されたが、具体的な負担のあり方については意見が分かれた。
●具体的な負担のあり方は継続審議
紹介状なしの大病院受診について、昨年8月にまとめられた社会保障制度改革国民会議の報告書は「一定の定額の自己負担を求めるような仕組みを検討すべき」と提言している。これを受け、部会では厚労省が、200床以上の病院の外来では紹介状なしの患者割合が6~8割を占めているとのデータを紹介。その上で、(1)初再診料相当分を定額負担として求める、(2)保険給付範囲内で一部負担金相当額に加え新たな定額負担を求める、(3)療養の給付費用に上乗せする形で別途、定額負担を求める─という3案を提示した。
大病院の外来受診を抑制する方針については概ね合意したが、定額負担のあり方を巡っては意見が分かれ、次回以降、委員から要請のあった、本来ならば地域の診療所を受診すべき患者の割合がどれくらいいるかを判断するデータなども踏まえ、引き続き議論することとなった。
定額負担を導入する“大病院”の定義については、鈴木邦彦委員(日医)が「大学病院本院をはじめとする特定機能病院」とする一方、望月篤委員(経団連)は「200床以上」と主張。望月委員は病床規模ごとに(1)と(2)を分けて幅広く運用し、病床規模が大きくなるにつれ患者負担の増える仕組みを提案した。
●「医師国保への国庫補助廃止」求める声相次ぐ
国保に対する国庫補助のあり方を巡る議論では、医師国保に対する補助の廃止を求める声が相次いだ。国民会議の報告書は「所得の高い国民健康保険組合に対する定率補助について、廃止に向けた取り組みを進める必要がある」と明示しているが、鈴木委員は「負担が増えれば解散する組合が出る。補助率の高い国保に移ることになり、結果として公費負担が増える」として、廃止しないよう強く求めた。
これに対し白川委員は、「徴収した保険料で運営するのが筋」と指摘。岩本康志委員(東大院教授)も廃止に賛同したが、国保への財政影響を見極めた上で最終的に判断すべきとした。同日の部会では、医師以外の委員から廃止を求める声が多く上がり、医師の国保保険料が高くなる可能性が強まった。
●出産育児一時金は“条件付き”総額維持
「出産育児一時金」の金額を巡る議論では、厚労省側が提示した現行の総額42万円を継続する案に保険者の委員が反発。一時金に含まれる産科医療補償制度の掛け金が3万円から1万6000円に減額される点を指摘し「納得できない」とした。
また、分娩費用が上昇を続けていることから「産科は価格を自由に設定して、利益を増やしている」と問題視する声が相次いだ。しかし、妊婦の負担が増すことに配慮すべきとして、附帯意見に「分娩にかかる価格を決める際のルール作り」の文言を盛り込むことを条件に、総額を維持することを決めた。
【記者の眼】紹介状なしで大病院を外来受診した場合に患者に定額負担を求める方針が決まった。金額については2500~1万円の範囲となる見込みだが、金銭的なインセンティブのみで、患者を地域の医療機関に誘導する効果がどれだけあるかは未知数だ。(T)