皆さんは公共トイレを使用し、手を洗った後にどうやって手を拭いているだろうか? 国内の公共トイレで、男性たちの手洗いの状況を観察すると、しっかりと手を洗った後に自身のハンカチで手を拭いている人は意外に少ない。彼らは、手を洗っている仕草はするが指先を少し濡らすだけにする、髪型を直すふりをして頭髪で手を拭く、豪快に手を洗ったあとに激しく手を振って水を切る、そもそも手を洗わない、など涙ぐましい「工夫」をしている。そのような状況は男性特有なのかと考え、妻に女性の様子を尋ねてみたところ、さすがに女性はハンカチを持っている人が多いようだが、男性同様、手を拭く手段に困っている人はある程度いるようである。
このような状況は、国内においてはペーパータオルを常備している公共トイレは非常に少ないことに起因していると考えられる。国内でもハンドドライヤーはかなり普及しているが、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行を契機に使用を中止している場合も多い。筆者は現在、米国に居住しているが、ほとんどの公共トイレにペーパータオルが常備されている。もちろん、すべての米国人が正しい手洗いを励行しているわけではなく、米国における接触感染が国内と比較して劇的に予防されているという明確なエビデンスが存在するわけでもないが、少なくとも国内よりはしっかり手を洗う環境が整っているように感じる。正しい手洗いは感染予防の基本中の基本であり、ペーパータオルの設置は平時の公衆衛生維持だけでなく、新興感染症対策としても有益なのではと考えている。
私の所属する聖マリアンナ医大においては、COVID-19流行前は学内のトイレにペーパータオルは常備されていなかったが、感染制御部と相談した結果、多くのフロアでペーパータオルを使用できる体制を整えてもらった。新たな衛生施設、物品の設置やその維持は、コストなどが課題となることも多いが、公衆衛生維持のためには、個人の努力だけでなく、公衆衛生環境の整備が不可欠である。ペーパータオルさえ設置されていれば、しっかりと手を洗いたいと思っている日本人は多いのではないだろうか。
勝田友博(聖マリアンナ医科大学小児科学准教授)[公衆衛生環境の整備]