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【識者の眼】「救急病院で宿日直許可の矛盾」薬師寺泰匡

No.5192 (2023年10月28日発行) P.57

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2023-10-11

最終更新日: 2023-10-11

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医師の労働時間を改善していく中で、時間外労働の勤務時間を算定しなくてすむよう、宿日直の許可をとる動きがある。冷水をかけるつもりはないが、個人的にはこれがどうにも地域の二次救急病院にとってみれば矛盾を抱えている気がして、当院としては動けないでいる。問題点を挙げる。

①「二次救急病院の宿日直」という言葉が矛盾を孕んでいる

まず、救急告示病院の要件は「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」である。常時診療に従事してはならない宿直体制において、診療に従事していると言えるのだろうか。救急の受け入れについても、おそらく年間1000件程度以上の受け入れをしている状況であれば、宿日直中に救急車がこないことのほうが稀であろうから、軽症の外来患者の対応を想定している宿直業務の範疇外になるはずである。これを両立させるためには、救急対応をする医師を別に用意して、宿直の医師も別に用意するしかないのではないか。しかしこれでは勤務医師数を増加させることにつながり、本末転倒である。

②病棟の回診は誰が行うのか

病院では必ず休日でも入院患者の回診をしてカルテ記載をする義務がある。この業務を行っているとしたら、宿直の許可基準では「通常の労働の継続は許可されない」とされており、宿日直の範疇を超えていると言わざるをえない。もし日曜日の日直で通常業務をしないとなると、主治医が休日もやってきて回診とカルテ記載をして、日直医はその業務には携わらないということだろうか? 主治医が休日も毎日病院にやってくるのであれば、宿日直制度を整えることは働き方改革に逆行してしまうことになる。休日の日直許可を得ている病院は休日の回診とカルテ記載問題をどのように解決しているのだろうか。

バイト、応援、外勤、様々な呼び方はあるかもしれないが、労働時間として算定されてしまうと本院での勤務に支障をきたすということで、大学病院などからの医師派遣を維持するため、宿日直許可を得る動きが加速している。「医療行為をさせてはならない医師に、ただいてもらう必要があるので、いてもらうための制度」が宿日直と言っても過言ではないのではないか。

救急対応や入院患者対応を期待するのであれば、現状は勤務扱いにせざるをえないというのが私の考えである。日勤+時間外+夜勤という枠組みにして2日勤務+時間外賃金を払い、勤務後はすんなり帰れる環境を整えるか、完全にシフト制にしていくしか存続の道がない。もしくは宿日直の時間帯の救急応需を諦めるか。日勤→宿直→日勤は地方の二次救急病院では不可能な構図である。

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[医師の働き方改革]

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