医療機関は,保健所(都道府県などの自治体)や厚生局(厚生労働省)といった官公庁とのやり取りが必須です。その際,医師法や医療法,療養担当規則といった法規制への理解は重要ですが,それ以上に重要なのが「行政法」への理解です。
今回は,聞き慣れない「行政法」という分野とその活かし方について説明したいと思います。
「『行政法』の話をします」と言いましたが,実は「行政法」という名称の法律はありません。「行政法」はあくまで法分野の名称です。
具体的には,行政手続法,行政事件訴訟法,行政不服審査法といった法律の集合を指します。弁護士が扱う法分野について,よく「六法」(憲法,民法,商法,刑法,刑事訴訟法,民事訴訟法)と言いますが,実はここに行政法は含まれていません。以前の司法試験において,行政法は必修科目ではありませんでした(2006年の新司法試験から必修科目になりました)。
行政事件訴訟法や行政不服審査法は,その名の通り,行政とケンカになった際に必要になる法律です。したがって,官公庁とやり取りをする際に常に参照する法律ではないでしょう。
実は,50条程度しかない地味な行政手続法こそが,官公庁とやり取りをする上できわめて重要な役割を果たします。その証拠に,行政手続法の第1条第1項には以下のように規定されています。
(目的等)
第一条 この法律は,処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。第四十六条において同じ。)の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。