新型コロナワクチンに限らず、ワクチンは健康人に使用するものなので、安全性に対する要求水準が高く、不足しているとき以外は悪評がたちやすい。現時点で新型コロナワクチンを危険視する言説に触れる機会は多いが、その多くはエビデンスのない印象論や一般化できない個別例の提示、あるいは集計データからの推測であり、分析疫学観点からの関連や因果関係を示すものではない。これがSNSなどを通して拡散されることは、ワクチン接種に対する個人の意思決定に悪影響を及ぼす危険がある。
ワクチンに関しての副反応の判定は、機序の明白なアナフィラキシーは例外として、原因や機序がわからないものが大多数であり、疫学研究による数の比較がエビデンスをつくる。ワクチンを含むすべての薬剤は、厳密な治験のランダム割付臨床試験(RCT)により有効性と安全性が確認される。
RCTで安全性が確認しきれないものとしては、予期しない副反応や長期的影響、稀少例などがあるが、市販後の疫学調査は困難である。薬害認定されたサリドマイドやキノホルムなどの副作用については、明白なリスクがあったので市販後疫学調査によりエビデンスが認められた。個々の例については、機序がわからない以上、診察・調査しても因果関係の明確な結論は導き得ない。実際、死亡例のほとんどが「γ:情報不足等によりワクチンと死亡との因果関係が評価できない」と厚生労働省により判定されている。また同省の「副反応疑い報告の状況について」では、いずれの項目においても「ワクチンの接種体制に影響を与える程の重大な懸念は認められない」とされている1)。
SNSなどで新型コロナワクチンの副反応が語られるようになったのは、2022年2月から4月にかけて、週当たりの3回目接種回数と超過死亡者数の間に0.9を超えるような相関が観察されたことがきっかけであったと思う2)。
このときの超過死亡の最大数は週当たり6000人程度であるが、この高相関をワクチンによる死亡に帰すためには、ワクチン死亡と超過死亡の比が一定でなければならない。ワクチン接種後の死亡例として報告されたものはこれまでに2000人程度で超過死亡に比べると格段に少ないため、比が一定という前提は担保されない。したがって、この超過死亡を3回目接種のためとするのはかなり無理がある。
事実、相関係数が高かったのは3回目接種の最盛期のみであり、4、5回目接種では低値で、6回目接種ではほとんど0になっている。高相関を理由にワクチン副反応死亡を疑った論説などは早急に撤回すべきだし、根拠が間違っていたのであれば、ワクチンを危険とするスタンスも変える必要があるだろう。
個々の事例の因果関係のほとんどは調べてもわからないこと、明らかに間違っているものでも、それが間違っているという情報を明示的に出す機関は基本的に存在しない(学会にその機能はない)ことは知っておく必要があろう。
【文献】
1)厚生労働省「第98回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和5年度第11回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)」資料、資料1-6「副反応疑い報告の状況について」.
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001161780.pdf
2)田口勇:元厚労省官僚が警鐘「ワクチン接種期に震災以上の超過死亡」政府やマスコミが黙り込む"不都合な真実".PRESIDENT. 2022年12月16日号.
https://president.jp/articles/-/63781#goog_rewarded
鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナワクチン][超過死亡]