肺炎はわが国の主要な死因のひとつであり,肺炎で死亡する人のほとんどが高齢者である。基礎疾患のない健常高齢者の肺炎は市中肺炎に位置づけられるが,在宅療養中の高齢者の場合,その多くが医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)に属し,誤嚥性肺炎や耐性菌による肺炎の頻度も高い。
高齢者では嚥下機能の低下と咳嗽反射の低下により誤嚥性肺炎のリスクが高まるため,口腔ケアとワクチン接種による予防対策が大切となる。ワクチン接種はインフルエンザワクチン,新型コロナワクチン,肺炎球菌ワクチンのすべてを接種することを推奨する。
NHCAPでは老衰の経過で発症する例や誤嚥性肺炎が多く,耐性菌の保有リスクも高いため,適切な抗菌薬治療が必ずしも生命予後を改善するとは限らず,宿主状態を加味して治療方針を決定することが求められる。
・肺炎を疑う症状は発熱,咳嗽,喀痰,胸痛,息切れなどであるが,高齢者では食欲低下,倦怠感,活動性低下,意識障害など非特異的症状のみで呼吸器症状を呈さない場合もあるので,注意が必要である。
・不顕性誤嚥による誤嚥性肺炎は臨床診断が困難で,対応に苦慮することも多い。
・在宅では胸部X線検査を実施することが困難なため,発熱,脈拍数,呼吸数,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を観察しながら詳細な聴診を行うが,寝たきりの高齢者では背部の聴診が重要となる。
・発熱,膿性痰,水泡音(coarse crackle)の聴取,炎症反応(白血球増加,CRP上昇)を認めれば肺炎の可能性が高い。
・肺炎と診断されれば起炎菌同定のために喀痰検査を実施するが,肺結核や非結核性抗酸菌症の可能性もあるため,抗酸菌検査も合わせて実施する。
・肺炎球菌抗原(尿,喀痰),尿中レジオネラ抗原,マイコプラズマ抗原(咽頭ぬぐい液)などの迅速検査や静脈血培養もできうる限り実施する。
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